浪人詩集(39)
浪人詩集(39)
130.ABC
A 君はそれで良いと思うのかい?
B はい、他にどうしろと言うんですかい。
A 僕は、本当はCに生まれて来る筈だったんだよ。
B とんでもない、Cなんて下の下ですよ。
A でも、僕も君もCに食べられちまうんだだぜ。
B ええ、それは少し、口惜しい気もしますがね、でも、良いじゃありませんか、それはそれで、今回から電気だそうですから、かなり楽ですぜ。
A そりゃ、そうさな、前回までは鉈だったからな、あれは見ている方がたまらん。
C 君たち、時間ですぜ。
A おい、Bさん、時間だとさ。おや、なぜ振るえているのだね。
B いやなに、そういうお前さんだって震えていますぜ。
A 今度は何に生まれてこようか?
B 生まれたかないですよあっしは。
A 仕方がない、行くか。
B 待ってくれ、震えて足が動かない。
A じゃあ、先に行きますぜ。
B ちょっと待って、一緒に行きますから。待ってください、後生ですから・・・ああ、足が震える、口が震える、体全体が震える。なんてあっしは、こんなにだらしがないのだろう。さっきまで、あんなに穏やかだったのに。
C おい何をしているんだね、お前さんたち。時間を守らなくちゃいかんじゃないか。
A とうとう来ちまいましたね。何だここは、いやにピカピカ光る鉄板が貼ってあるなあ。
B ほら、電気が流れだした。足がびりびり痺れて来やがった。
A アハハハ、Bさん、あんたの毛は全部ピンと立ってしまいましたぜ。
B アハハハ、お前さんのも立っていますぜ。
A イタタタ、足がしびれる、頭もガンガンしてきやがった。
B もう少しの辛抱ですぜ、もう少しの。それにしてもくるしい。心臓が破れそうだ。ああ、苦しい、苦しい、助けてくれ。お袋も親父もおいらも結局は皆死んじまう。苦しいよ、Aさん、何か歌でも歌って下さいよ。
A ああ、よしきた、生きる死ぬのとくよくよするな。くよくよするときゃ、よくよくのこと、あるにまかせて飲む酒は、ない銭、はたいて買ったもの、やあ、ちょいなちょいな・・・
A 豚
B 牛
C 人間