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浪人詩集  作者: 屯田水鏡
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浪人詩集(36)

浪人詩集(36)


122.太平洋の五月


雨太郎と風之進は、ざんぶ、ざんぶと海を渡ります。

魚が水の中から顔を出して雨太郎と風之進に問いかけます。

「君たち何処へ行くの」

「北にある大きな島まで行くんだ。その島では、今頃、桜の花が散って、次には、ツツジが一面に咲き出すのさ」

「へえ、それでは、君たちはその花を見に行くんだね」

雨太郎と風之進はにっこり笑って顔を見合わせるのでした。

「そうだよ、僕たちは黒潮に乗って行くから、犬かきでもやっていれば、ちゃんとその島に着くのさ」

そういうと、雨太郎と風之進はざんぶ、ざんぶと海を渡ります。

雨太郎が通りますと、海はじょぼじょぼと、まるで鳥肌立つ様に小さな粒粒がたくさんできます。

魚たちは不思議そうに海の中からその様子を見ています。

風之進が通りますと、大きな波がたくさん立ち上がって波頭から真っ白い泡がひゅーひゅーと飛んでいきます。

お日様は空にでんと構えています・・・・・。

夜になると、まん丸いお月様が空に、つんと浮かびます。

かもめが一羽すいすいと滑るように飛んで来て二人に問いかけました。

「君たち、一体どこから来たのさ」

「ずっと、ずっと南の方からさ」

風之進がきっぱりと言いました。

「そして、北へ行くのさ」

雨太郎もきっぱりと言いました。

かもめはくるくると二度ほど空に輪を描きました。

その輪の真ん中で、お月様がキンキンと笑っておりました。

「かんかん、かもめの、かん太郎、くるくるぱあで輪を書いた。お月様クックと笑ってる。チップジョボジョボ、チップジョボ」

雨太郎と風之進が歌い出しますと、かもめは、ぷりぷり怒ってどこかに飛んでいきました。

雨太郎と風之進はかもめが嫌いでした、なぜかと言いますと、かもめは、二人の仲良しの魚を、それはもう、ぱくぱく、ぱくぱくと食べるからでした。

二人は大きな声で、けらけらと笑いました。

そして、二人はまた、何日も海を渡るのです。

「ざんぶ、ざんぶ、ゆうらゆら、海は大波どっどっど、今夜は月夜だ、ツンツルテン」

銀色の月が斜めにどこまでも照らし出します。二人は、きらきら光る、水銀のような海を遥かな彼方まで泳ぎ続けるのでした。


※この頃、宮沢賢治を読んでいた。何だか雰囲気が似ているような気がする。


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