表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浪人詩集  作者: 屯田水鏡
35/48

浪人詩集(35)

浪人詩集(35)


119.鏡


桜の園のその中に一人寂しくたたずみて、思うは何ぞ

桜、はらはら散りゆきて、あたかも四月の綿雪の如し


鏡の中を覗いてみると、そこにもう一人の私がいた

くるりと背を向けると

どこかのラジオからふしぎなメロディーが流れて来る

夜は黙々と更けゆく

鏡の中でコトリと音がした

ふり向くと蛍光灯の光を真横から浴びて

青白い顔をしたもう一人の私が

気味悪く笑っていた


この世のものとは思われない、長い長い麻綱がありました

綱はするすると空に伸びて行きました

そして一つの小さな赤い星にくるくると巻き付きました

それを見ていた一匹の天邪鬼がせっせと綱を上り始めました

昔、昔の九州の山奥の小さな村の話でした


※時々今でも夜中過ぎに自分の顔を見るとぞっとすることがある。基本的に弱虫なのだろう。


120.蟹


静かな大海から空中に躍り出た一匹の蟹は

自分が漁夫の虜となったことを初めて知った

雄雄しくまさかりのような二本の腕を天に向けて振りかざした

皮肉にも網はその腕に容赦もなく巻き付いた

漁夫にその武器を根元からポキリと折られた時

ようやく蟹は自分の読みの甘さを痛感した

夕日は海を血の色に染め上げた


いま蟹は漁夫の家の台所の大きなボールの中で

一人瞑想に耽るように静かに目をつぶっている

刻々と近付きつつある生命の終わりを感じながら

死の恐怖をまじまじと見つめるのである

海底では情け容赦もなく獲物を切り裂いた鉞のような逞しい腕は

二本ともにすぐ側に転がっている

蟹には最早戦う武器も無い

台所の窓から見える月がその寂しい光を地上に投げかけている

蟹はチラリと空をにやった

運命を予言するかのような流れ星が青く流れるのが見えた。


※我が家の稼業は漁師であった。この蟹ははさみが取れてしまっていて、市場に出しても安いので、自分たち家族で食べた。久しぶりの御馳走であった。


121.雑


街の真ん中に昼でも輝く裸電球がありました


私は生きます、だから働きます

私は勉強します、だから私は偉い人になります


僕はつまらない大学に行き、とるに足らないことをまなびます

そして、味気ない人生を送ります

頭がぼんやりと霞みます、早速タバコをやめましょう


人の心は不可思議です、掴みようが無く

少しずつ調べなくてはいけません

一語一語、外国語の辞書を引くようなものです

僕は人間にだいぶ同情します

アメリカ人は青い目がいますね

日本人にも赤い目がいますね

でもその人は結膜炎です


※受験に失敗して、希望していない大学に入学した。そのことがこの詩には現れている。だが、希望しない大学で何人かの得難い友人に出会った。勿論、親友にも出会った。ついでに、友人を通して、今の嫁さんにも出会った。人生は、最後まで生きて見なければ、良い人生であったのか、そうでもなかったのか分からない。失敗を受け入れてこそ人は成長するのだと思う。ちょっとばかり悔しいけれどもね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ