浪人詩集(3)
10.雑感
彼は一度死んだ
今また、もう一度、息を吹き返した
彼は新しい人間となった
今までの彼は、ただ、がむしゃらに進む野獣であった
その目は血走り、その心は焦り、
狂わんばかりの心臓は、もの凄い速さで打ち、
その頭の中には、真の心が存在していなかった
そのため、彼は自らの命を絶った
いや、彼は自然界に負けてしまったのであった
自然の驚異の前に自らを取り失い、自らを省みず
あるいは他の生物を羨み、そのものの命を常に求め
内部より奔流する自らの命に気付かず
ただ、他の動物の犠牲の上に、自らの命を貴ばんとしたのであった
その命の本質を知らずして、彼が為し得た全てのものは
ただ、空しき車の空回りに過ぎなかった
それがため、彼の焦りは絶頂に達し
ただ、一途、死への道へ追い込まれた
彼はただ、自然界の恐ろしさを舐めるのみにて
自分の内部の粗雑さを見つめようとしなかった
彼は最後の息をするときになって
漸く自分の非に気が付き始めた
その時、彼の右手には希望の糸がしっかりと握られた
彼の脳髄には熱風が吹きこまれた
一瞬の空虚な真紅な暗闇の後、彼の体には、
新しい血が心臓の内部の一点より激流となって流れ始めた
今や彼は、真の生に目覚めて新しい世界の空を見つめる
彼の手にはしっかりと希望の糸が握られている
その清んだ瞳の奥には、不くつの魂と勇気とが光り輝いている
今また彼は、息を吹き返し、しっかりと大地を踏まえ
大空に両手して、未来の自分を誓うのである
※文章はかなりおかしいけれども、敢えて、出来るだけ、その通りに書いた。
何れにしても、何を言いたいのか、意味不明である。
多分、十九の私は、漸く、浪人生活の現実に、気が付き始めたのだろう。
この頃、同じく、浪人生活を送っていた高校の先輩が、溺れ死んだ。
なんでも「あの島まで、泳いでくる」と言って、海に飛び込み、そのまま帰らず、二日後に、十キロほど離れた海岸で見つかったそうだが、たぶん、それを知った時に、これを書いたのだと思う。
11.すずめ
すずめ、すずめ、チュンチュン、すずめ
お前のお宿は屋根瓦、おいらの家の屋根瓦
お前がチュチュんと泣いた時、おいらは窓から顔を出す
おいおい、すずめ、何してる
ほらほら、あっちを見てごらん、誰かがお前を見てるだろう
その手に何を持っている、黒く光る、空気銃
早くお逃げよ、何してる
出ないと、お宿で待っている、お前の子供が泣いちゃうぞ
おーい、すずめ、働きすずめ、今から、どこに飛んでくの
夕日に向かって、飛んでくの
お前の翼は、金色だ
他のどんな鳥よりも、お前の姿は、美しい
お前が、チュチュんと鳴くたびに
おいらは、窓から顔を出す
※意味不明。全く能天気。
12.君よ
君を初めてみたには、うらぶれた街の通りでした
君はピンクのワンピースを着ていましたね
君は誰かを探すようにあたりを見回していましたね
君の横顔は何と可愛いのでしょう
君の姿は何と素敵なのでしょう
君はひざ小僧をのぞかせていましたね
君の足の赤い靴は小石を蹴っていましたね
君の肩まで垂らした髪はどうしてそんなに黒く、そんなに甘く匂うのでしょう
君の瞳はどうしてそんなに清んでいるのでしょう
君の口もとはどうしてそんなに可愛く、そんなに人を惹きつけるのでしょう
君はその時、僕に気が付きましたね、そうして
君は黒髪をなでながら、僕に微笑みましたね
君はうすく口紅を塗っていましたね
君は僕を見つめていましたね
君は小石をけるのをやめましたね
君はゆっくり下を向きましたね
君は胸のロケットをなでましたね
君の頬がちょっと赤くなりましたね
君は又小石をけりましたね
君は又髪をなでましたね
君は又微笑みましたね
君の髪が僕の頬に触れた時
君はバラの香りがしました???????
君は寂しく笑いましたね
君の瞳は濡れていましたね、そして
君はさようならと言いましたね
君は又さようならと言いましたね、町角を曲がるとき
君は振り返りましたね、そして、そっと手を振りましたね、その時から僕は
君を大好きになったのです、その時から僕は生きようと思ったのです、なのになぜ
君は僕を苦しめるのですか、なぜ
君は僕を悲しませるのですか
君はどうしてそんな商売をしているの?
※書き出しを君で統一しよういう強いこだわりがあったように思う。
段々、精神が壊れ始めて行くのが分かる。その頃、人間を差別してはいけないと人には声を大にして言っていたが、実はこの私こそが、差別をしていたのだなあと、今は分かる。男性遍歴のある女性は絶対に許せないと思っていたくせに、十人切りだとか百人切りだとか言っている男性を、すごい人だなあ、と憧れていた。今思えば、実に下らない。