浪人詩集(28)
浪人詩集(28)
101.夏だ
夏だ、ダリアの花がある、一人寂しい、雲を掴むような気持ち
くねくねと泳ぐ、蛇と君のうなじ、もう君は、永久に笑わない
めらめらと、もえる髪、全て、嘘と虚構か
昔、歯を全部、抜いてしまったおじいさんがいました
ジェット機のように騒々しくて冷たい女は嫌いだ
コカ・コーラは出て行け
※何とも思い出せない
102.あの娘
あの娘可愛いや十七、八か、細めたまつ毛に目が二つ
駅のホームのベンチのそばで、乱れる髪に手を添える
風よ邪険にまとわりつくな
乱れる裾が気に掛かる
103.どん百姓
どん百姓と言われても、魚臭せえと言われても
お前は、お前は、負けるなよ
でっかい都会の、小さな虫けらどもに
山には山の夢があり、海には海の意地がある
どん百姓で何が悪い、魚臭くて何が悪い
その手はこんなに荒れていて、その身は汚く見えるとも
腹の中は、こんなに綺麗だ
手前らみたいに蛆虫で一杯ではないぞ
でっかい都会にゃ空が無い、生きているやつらは、心が無い
風よ風よ吹き飛ばせ、腐った蕾を微塵に飛ばせ
どん百姓と言われても、魚臭せえと言われても
お前は、お前は、負けるなよ
都会のつまらぬ虫けらどもに
お前は、お前は、負けるなよ
※どうして、都会人を嫌っているのか不明である。
だが、どう言う訳か、僕は東京弁が嫌いである。ついでに大阪弁も嫌いである。京都弁はもっと嫌いである。
この頃から僕は、九州は独立した方が良いと思うようになったようだ。
104.精神病院
浜辺の松の間から、老人ホームの灯が見える
死体焼却場の森はこんもりとして
うち撒かれた骨片が、白々と浮かび上がっている
浜辺を散歩する老婆に精神病院を問われた僕は
丁寧に白砂に地図を書いた
精神病院は、心が純粋で、美しい人が行く所で
精神が麻痺している人は、娑婆にいる方が良いと言ったが
老婆は僕をじっと見て笑うだけであった
呪文を唱えながら立ち去る老婆の後姿を眺めながら
僕の心は深い湖に投げ入れられた石の地蔵のように
深く、重く沈んだ
※大学を卒業して就職をして暫くして、多分、一年か二年経過した頃であろうか、僕は、ひどい不眠症になって、精神病院に診察してもらいに行ったことがある。
そうしたら、十五歳か十六歳ぐらいの看護師が二人、多分まだ見習いであろう、可愛い子たちであった、出て来て、僕にあれこれ質問した。
内容は、父母に精神病暦は無いか?叔父叔母に精神病暦は無いか?兄弟に精神病暦は無いか?であった。
僕が、精神病暦は誰もいないと言うと、そんなはずはないと、シツコク聞く。
そこへ、医者がやって来て、その娘たちを怒鳴り散らして、追い払い、僕はやっと診察をしてもらった。
結局、睡眠剤を、調合してもらった。
その後、何度か精神病院に通ったが、睡眠剤を飲めば、眠れるが、薬が無くなると眠れなくなった。
僕は、やけになって、約三か月間、週に三、四日ほど中洲に通って、スナックで呑んで歌って、お姉ちゃんを誘って、朝まで飲み歩いた。
今思えば、お姉ちゃんたちのヒモから、よくもまあ、いちゃもんや脅しを受けなかったものだ。
無意識のうちに、良い娘を選んでいたのだろう。
いや、彼女たちの、ほとんどは、心地良い会話を楽しみ、優しくて、チャーミングで、お客を大切にした。
僕の、不眠症は、いつか治っていた。
そのうち、金が続かなくなって、中洲は遠のいた。
105.トントントン
トントン、トントン、何の音
トントン、トントン、風の音
トントン、トントン、何の音
トントン、トントン、ネズミの音
トントン、トントン、何の音
トントン、トントン、大根を切る音
トントン、トントン、何の音
トントン、トントン、オオカミの音
君に僕の秘密を聞いてもらおうと思ったのだけれども
吐き出す煙に気を取られて、何もかも忘れてしまった
※多分、何も考えずに、書いたのだろう。
106.梅雨
梅雨って、中年女の涙みたいで嫌いだ
毎日、毎日、毎日、もう嫌になる
どこかに雨宿りするところはないか
ない
紫陽花の花が咲いている、何となく救われた
明日はあの人と別れよう
梅雨って大嫌いだ
※明日はあの人と別れようなんて書いているところが面白い。
実際は、とっくに捨てられているくせに。