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浪人詩集  作者: 屯田水鏡
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浪人詩集(24)

浪人詩集(24)


92.大学生活


ハイライト、いこい、チェリー、若葉、エコー、しんせい

脳細胞はみじん切りになって、いろんな煙草の煙が詰まっている僕の頭は、今日もモーターのような唸りを発している、試みに頭を斧で割って見るか、七色の煙がシュッと出て、僕は人をけむに巻いてやろう、頭の中は、煙の大循環と騒々しい海鳴りの声、アンニュイとはいったい何だ、コケティッシュなカラー写真が三枚と、クリントイーストウッドのポスターが一枚、壁に貼り付けてある、異様に細長い畳三畳の部屋、低い天井の真ん中に60ワットの裸電球が一つ、眠ってはいけない、寝れば必ず夢を見るから、壁と天井が狭まり、遂に三角錐のテントになって、僕の乗った潜水艦は、八千メートルの海底で、グシャリと潰される、小さな窓から、外を見てみよう、月が出ている、何の感慨も湧かない、平凡な月だ


※長い浪人生活の反動であろうか、大学生活、こんな不様なものであった。

解き放たれた、僕は、酒、煙草、ギャンブルに明け暮れていた。


93.下宿の朝


「タケシくん、ばあっ」

「ウワー」

急に子どもは泣き出した

「どうして泣くの、お母さん、冗談でやったのよ、冗談なら、笑わないといけないでしょ、もう、弱虫」

僕の部屋は南の端っこにある、窓の下には径があって、それは、小学校への通学路になっている、朝八時を回るころから子どもたちの爽やかな時にはうるさい歌声が聞こえて来る、何て元気の良い奴ら何だと、眠いので、片方だけを開けた、弛緩した顔を窓からのぞかせるとから、僕の気だるい一日が始まる、タケシと呼ばれた子は、近所でも評判の子である、すぐに泣くことと、おねしょをすることでは、彼の右に出るものは、まず、いない、若い母はこの窓の下の径を通り抜けて、子どもを送り出すのが日課となっている、「この子ったら、今日も布団を濡らしちゃったの」、近所のおばさんに、眉を寄せて、愚痴をこぼしていたが、その子を見る目は笑っていた、山の端を登り詰めた太陽から受ける爽やかな光を存分に受けて輝く若草の露、僕は、その若い母の目に、そんなものを見た、よだれを流した、阿呆のような、寝ぼけた僕の視線に気が付いたのか、彼女らは見上げた、塩を被ったナメクジのように、僕は意気地なく首をすごすごとひっこめたのである


※こんな学生生活を続け乍ら、僕は自分の将来に対して漠然とした不安を抱いていた。人生は思い通りには運ばないことを漸く実感として、気付き始めたのであるが、我ながら、情けない。でも、文句は言うまい、この姿こそは、紛れもなく、僕自身の若き日の姿なのだから。


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