浪人詩集(21)
浪人詩集(21)
76.山の上で
山の上で、俺たちは叫ぶ、夕日に向かって、しみじみ叫ぶ
若い心は、川と流れ、雲と漂い、闇と消える
若い心を、燃やし尽きても、俺たちの未来は、まだ、暗い
死ぬまで燃やそう、熱い命を
夜空を焦がそう、若い血潮で
本物の太陽が、朝焼けの空を、澄んだ青に変えるまで
※意味がつかめない
77.コンドル
ある朝、私は汽車に乗る為に、駅へ急いでいた
汽車は、混んでいるかな、空いているかな、と思っていると
空から、一羽の大きな鳥が、私の肩に舞い降りた、ハゲワシであった
お前はなんだ、と問うと、お前の乗る汽車だ、と言った
ふざけるな、真面目に答えろ、と言うと、鳥は笑って言う
だから言っているじゃないか、混んどる、だ
※じつに馬鹿馬鹿しくて、下らない
78.氷のやいば
私を突き刺すのは鋭い氷の剣
空にある針のような星は私の慰め
宙ぶらりんの私が望むのは生か死か
キンキンと鳴る金属音は私の生来のものか
それとも私の破滅の音か
一本の煙草に心の平穏を求めても、それは死への近道
こうして書く言の葉も、それは手のやること
キンキンと鳴る金属音は私の頭の秘めごと
吸いかけの煙草は、私の命の全て
ちなみに、思うことと、なすことは、すべて異なるもの
※金属音の様な耳鳴りに、高校を卒業して、浪人を始めた頃から
悩まされている。数年前に、両眼の焦点が合わなくなったので、
眼科に行ったとき、耳鳴りのこともついでに話したら、脳腫瘍の
疑いがると言われて、頭のレントゲンを撮ったところ、頭の中は空っぽで
何の症状も無いと言われて、安心はしたが、空っぽの頭と言われると、
それはそれで、ちょっと複雑な気持であった。
両眼の焦点の不一致については、ビタミン剤を、処方してもらって、
少しずつ改善した。一カ月くらい眼科に通った時であろうか、その日は、
何時ものドクターではなく、三十代のドクターであったが、彼が僕に
言ったのは、「いつまでも、こんな薬を、長々続けてどうするんですか」
であった。「はあっ、何?」僕は、むっとして横を向いて喋らなかった。
「なんだ、この馬鹿垂れが、それを患者に、もっと早く説明せんかい、この
藪医者の、ぶすめが」と言いたかったが、黙っていた。
それ以来、その眼科には通っていないが、目の調子は、まあまあ、である。
僕は元々近眼で、現在でも、近くは良く見えるが、遠くが見えにくくなっ
たので、別の眼科に行って、
「ちょっと、近眼が進んで、遠くが見え難いので」と医者に説明していたら、
「いえ、あなたは、老眼です」ときっぱりと言われた。
少し、むっとしたが、当たっていないことも無いので、それに彼女は
僕の好みのタイプであったので、あまり、腹は立たなかった。
79.ミルク
知らない間にミルクが飛び出した
なぜって
それは、君のことを思うからさ
そうだよ、まち子
君の素晴らしさが、そうさせるのさ
※何てことは無い、自慰行為のことである。
悶々たる日々を送って、しかも飢えていた。
思い起こせば、初めて、自慰行為をしたのは
公園内の公衆トイレで、図解入りの落書きを見て
その方法を覚えたのが最初だ。
予備校のトイレでしていた時、鍵をかけ忘れて
ドアを急に開けられたことがある。
「あ、失礼」といわれたので「あ、どうも」
と言った。非常に、気まずかった。
公園で、便意を催したので、公衆トイレを開けたことがある。
和式の便所であった。やせがたで、やや色の黒い、中年男性が
しゃがんだまま、僕を恨めしそうに、見ていた。
あの時の、気持ちが分かったような気がした。
80.おぼろ月
春まだ浅きおぼろ月、しみじみと、そみじみと、眺め入る
冷たき風を頬に受け、耳を澄ませて、声を聞く
風はざわざわ囁いて、遠き思いで、顕わるる
これと言っては無いものの、なぜか、涙は溢れ来る
春まだ浅きおぼろ月、しみじみと、しみじみと、眺め入る
※何だか、メランコリー
81.赤い話
夕焼けの空は赤い色、こんがり焼いた、赤い色
白いカモメも赤い色、白い波も赤い色、海の青さえ赤い色
麦の緑を通り過ぎ、松の緑を通り過ぎ
赤い夕陽の丘に出た
82.人間とは
人間とは何だろう、それは確かに忘れる動物に違いない
生まれてすぐに、母の胎内にいたことを忘れ
物心つくと母の母乳の味を忘れ
年ごろになると愛情を忘れ
大人になると真心を忘れる
ああ、友よ、人間とは何と悲しい生き物だろう
何と貧しい生き物なのだろう
海の広さに比べたら人間なんて、米粒にも満たない
※偉そうに!
83.本当の芸術
本当の芸術とは偽りの事柄をまことしやかに語ることである
だから、真の芸術家は嘘つきでなければならない
自分のことを、赤裸々に語る、自然主義作家は、人間のクズだ
前衛画家は宇宙人だ、とても付き合い切れない
※何のことを言っているのだ?
この頃、中洲に飲みに言ったら、帰り道に、ミニスカートの
おじさんに「ねえ、遊ばない?」と言って、誘われた。
僕は、どうしても、その人と遊ぶ気になれなかったので、断った。
84.黒豹
笹藪から一匹の黒豹が躍り出て
肩越しに月を見ながらこういった
大自然に生きていく、そのことに何の意味があろうか
今日を生き抜く、それだけが目的なのだ
月光に照らされたその身は穏やかに息づいている
この天地がいつ一変して雷鳴轟き渡り風雨脱兎のごとく押し寄せ
瞬く間に煉獄の世となること無しと、どうして断言できようか
その時には、全ての獣類が恐れ且つ敬うこの俺さえも
一片の木の葉にしかすぎぬのだ
だから俺は、俺の手の届くところ、俺の力が及ぶところで威を示すのだ
弱いものは強いものに襲われる、これは自然の理ではないか
情けを掛けていていては、この俺が生きてはいけないのだ
言い終ると、捕えた野兎を、美味そうに食い始めた
ワオー、ひと声吠えると、黒豹は、笹藪の中にその姿を消した
後には月が煌々と天地を照らすばかりであった。
※中島敦の「山月記」を読んだ後に書いたのだ。山月記の流れるような文体は何度読んでも気持ちが良い。
85.友情
真の友人とは何だろう、それは、君が死んでくれ、と頼んだとき
いつでもそれを実行してくれる人である
しかし、君はそれを言ってはならない
もし、君がそう、頼んだならば
君はその時既に友人に対して不誠実であるのだ
従って、友人も君の言葉を実行に移し必要はない
そして、その言葉が発せられた時、全くの他人となるのだ
君は十分それを心せねばならない
※この理屈は根本的に間違っている。そもそも、死んでくれと
頼もうと思う発想自体が、友人としての資格を失っている。
中国のことわざでは親友について、莫逆の友、刎頚之友、水魚の交わりなどと言う。それは、竹馬の友、よりも、思いは遥かに強いのである。
86.雑の雑
ある人がこう言った
全てを与えられても、全てを拒まれても、変わらないのが本当の愛であると
また言こうも言った
いかに美しい虹も、十五分も経てば、もう振り向く人はいないと
思うにこの人は、人間らしい人間なのであろう
なぜなら、人間とは、矛盾の塊だから
聞きかじったことを、さらに深く知ろうとする人を学者という
聞きかじったことを、すぐに人に吹聴する人を社交家という
人はとかく社交家になりたがる
大胆に言えば、知識は必要ではない
それよりも、広い心を持つべきだ
西洋ではそれを愛と言うらしい
人は忙しいとき
ああ、手がもう二、三本欲しいよと言う
だが実際にそうなれば、その人は自殺するに違いない
そこが修業者とは異なるものである
千手観音は、多くの迷える魂を救うため、千の手を持つ
涙の色は何の色
きっと酸っぱいみかん色、それとも赤い柿の色
涙はホロホロ流れます
泣き虫小僧はクシャクシャの顔でリンゴを食べました
ゴソゴソ、ゴソゴソ、チューリップの花が
ゴソゴソ、ゴソゴソ、揺れました
山すその、村はうとうと春の降る
※ノートの中に挟まれた紙きれに書かれているものである。
当時は、すごい、閃きだと思ったのだが、読み返してみると、
詰まらない。まだ、茶色く変色した、紙きれがかなりあるが、
これで、少しは処分できる。