浪人詩集(2)
4.帰りなんいざ
帰りなんいざ
小さなバッグをぶら下げて
帰りなんいざ、山を越え
帰りなんいざ、川を飛び
思い出をいっぱいぶら下げて
星降る夜の街角を
駆けて、駆けて、駆けて行く
帰りなんいざ、君のところへ
※今思うと、君のところ何てあては無かった、寂しい青春であった。
5.スピッツ
彼は歩き続けた
彼の後から犬が追ってきた
小さなスピッツであった
彼は犬を抱きかかえた
そして、頭の上まで差し上げた
クンクンと犬がないた
夕日が彼の横顔を照らした
また犬が泣いた・・・・
彼の目が光った
涙が一すじ口の所まで流れた
真っ赤な空がうるんだ
夕日は彼の横顔をみつめた
※今読んでも、意味不明である。
6.俳句
バスの窓、手を出しゃ届く枇杷の実二つ━行く時のバスの中にて
野ぐそして、見上げる空にウグイスの声━山中にて
新緑の、かおる水辺に、紅あざみ━山中にて
村里のこみちを走るバスの影━山頂にて
前を行く友の左手にぬれタオル━山中にて
青い空、足元見れば、犬のくそ━帰って来て。鮮やかなコントラストの効果をねらったものである
※実に下らない
7.山登り
緑の野原を横切って僕らは頂上へ向かって登る
頭上の太陽を肩に浴び、僕らの額には汗がにじむ
坂は急になる、僕らのタオルはびっしょりとぬれる
上から仲間が来る、笑顔でこんにちわと言う
僕らも笑顔でこんにちはと言う、仲間は去って行く
僕らはまた、歯を食いしばって進む・・・
かすかな流れの音がする、みなは駆け寄る
リュックを下ろし、水を手にすくう
きらきらと水が手から逃れる、僕らは流れに口をつける
ごくりと咽喉が言う、またごくりと咽喉が言う、冷たい水が胃の中を駆ける
タオルを濡らして顔をふく、火照った頬にひんやり沁みる
隣の山でうぐいすが鳴く
「あれが山頂だよ」一人が立ち上がって言う
※この山登りの帰途、僕たちは、山の中腹からバスで帰った。
バスが、なかなか出発しないので、乗客から不満の声が上がり始めた。
バス停近くの売店のおばさんが言うには、定刻に発車すると、早く着き過ぎるということであった。
二十分ほど遅れて、バスは出発した。
乗り込んできた、運転手と車掌は、乗客の様子を察知したが、反対に乗客を睨み返した。
そして、更に唖然としたことには、出発してすぐ、バスを止めて、運転手は、近くで虫を取って遊んでいた子供と、世間話をしたのである。
したがって、バスが出発したのは三十分遅れであった。
乗客は結局文句を言わなかった。
なぜなら、バスは断崖絶壁の小道を異常なスピードで走った。
そして、カーブでスピードを落とすことをしなかった。
運転手は、ハンドルを目いっぱい切って、手を放して、両手を使って帽子をかぶり直し、ハンドルがひとりでにくるくる回るのをにっこり笑って見ていた。
バスは結局、定刻通りに終点に到着した。
もちろん、とんでもない、糾弾すべき、運転手と車掌ではあるが、あんなにドキドキして、あんなに見事な運転技術を、その後見たことが無い。
8.夢
遠い、遠い、夢の国
シンドバッドの夢の国
僕はきのう行きました
青い小鳥が飛んでます
チルチルミチルは歩きます
楽しい夢は終わりです
9.夜
すっぽりと町は夜に包まれた
街灯の明かりが地面を赤々とてらしている
遠くで犬の声がする
さっきまで起きていた弟も寝たようだ
家の中は少し蒸し暑い、下駄をつっかけて外に出て見る
ヒンヤリとした風に少し目が覚めるようだ
月には薄雲がかかっている
随分天気が続いたな、ここらでひと雨欲しい気がする
お百姓さんも困っているだろう
二キロも離れた駅から最後の電車の警笛が聞こえる
さあ、もう少し頑張ろう、でないとすぐに朝が来る
※この日は、朝から暑かった。私の部屋は二階だったが、すぐ近くの家の二階に、新婚の夫婦がいて、そこは、窓の広い部屋で、私の部屋から中のようすが良く見えた。
その夜、勉強に疲れて、ぼんやりしていると、急にその部屋の明かりがついて、蚊帳の中から、シュミーズ姿の新婦が現れて、シュミーズを胸の上まで、めくり上げて涼を取り出した。私は、思わず照明を消してじっと見てしまった。
こちらは暗いから、分からないだろうと思ったのだが、その人は、私の方をじっと見ていたのが分かった。
それから暫く、私は、何となく不安な日々を過ごした記憶がある。