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浪人詩集  作者: 屯田水鏡
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浪人詩集(19)

浪人詩集(19)


71.ジャパニズママさん


祭の夜に会いました、初めて恋を知りました

僕は九つ、あの人は二十歳と少し、髪の長いひとでした

風鈴を鳴らす、一時の風のように

あの人は通り過ぎました、甘い髪の香りを残して

あの人は振り返り、私に笑いかけてくれました

月夜に咲く白百合のように、いや、朝露を含んだ牡丹のように

ああ、私を夢に誘い、この胸をくすぐる、あの微笑み、でも寂しそう

どことなく、練りぬかれた、その後ろ姿に僕は見とれた

夏の終わりの浜辺で、僕はあの人を見かけた、水着姿のあの人を

だけどヤンキーと二人連れ、ガムを噛み噛み、分からない国の言葉を

話してた、僕の近くのおじさんが、ジャパニズママさんと呼びかけた

あの人は、眉をきりりとひそませた、ジャパニズママサンて何だろう

きっとあの人の名前だな、それで、僕も呼んでみた、ジャパニズママさん

あの人は、寂しそうに微笑んだ、祭りの夜と、同じように

幼いころの思い出は、今も心に蘇る

あの人は、今はどうしているのかな、元気で生きているのかな


※近くに米軍の基地があったので、多くは生活のため、米兵と付き合う女性は多かった。

僕の住むところに、武内さまという、小さな祠があって、そこの夏祭りが毎年ある。七月の夜、子どもたちは、武内さまに集まって、そこで、花火を上げたり、菓子を食べたりするのだが、その費用は、住民の寄付によって賄われた。

「武内さまのおさい銭を下さい」と言って町内の家を一軒、一軒、訪問するのだが、ある時、小学校の低学年だった僕は、上級生から命じられて、一人で米軍の、将校宿舎を何件も訪問した。

その時のことである、一軒の将校宿舎のドアを開いた、鍵はかかっていなかった、ちょうどファックの最中であったのだろう、激しい男女のよがり声が聞こえたが、僕はかまわず、大声で、「ギブミー、武内さまのおさい銭」と大声で叫んだ。すると、声が急に止んで、暫くして、バスタオルを巻いた、若い女性が出て来て、「坊や、何なの」と言って、僕の頭を撫でた。僕は、その人の艶めかしく、美しい姿に、見とれてしまった。残念ながら、武内さまのおさい銭を貰ったのかどうか、記憶にないが、ヤンキーに対してジェラシイと憎しみを覚えたことを記憶している。いわば、自分の彼女を奪われたような気がしたのである。同様の経験を何度かした僕は、心情的に、ヤンキーは嫌いである。勿論、大人の僕は、差別はしない。だが、若いころの僕は、毛唐とか紅毛碧眼の族とか鬼畜米英とかいった差別用語を良く使った。一方で、白人の多くは、今でも黒人や黄色人に対して差別していることは明白だ。日本が、白人の国家であったならば、原子爆弾は落とされたのだろうか、と、時どき、僕は思う。

でも、悔しながら、僕は、米兵の後を追っかけて、チョコレートやチュウインガムをせびって、貰った子どもの中の一人である。

それはさておき、僕の恋した、ヤンキー相手の女性の多くは、男が、アメリカに帰国する際に、棄てられた。勿論、何人かは、一緒にアメリカに渡り、幸せに暮らしている人もいる。棄てられた彼女たちは、パンパンと呼ばれて、地域から白い目で見られた。

でも、僕の知る限り、彼女たちは、優しくて、美しくて、センスがあって素敵であった。

僕の周囲には、何人か、混血の子がいた。彼らの殆どが、「あいのこ」と言われて、いじめられていた。

卑怯で意気地の無い僕は、彼等をいじめた覚えはないが、いじめを受けている彼らを、積極的に、援助することもしなかったし、彼らと一緒になって、理不尽に立ち向かおうともしなかった。

教師は、うちの学校では、いじめはありませんというけれども、そんなことは百パーセントない。僕の経験では、毎日いじめはある。教師はそれを見て見ぬふりをしているだけである。ふざけ合っているだけだといっていることは、間違いなく、暴力なのであるし、傷害事件である。

いずれにしても、彼女たちが、そして、その子たちが、その後の人生を何とか、幸せに暮らしたであろうことを、祈りたい。


72.失恋


足元の小さな石ころを蹴ったら、小指の先がちくりと痛んだ

石ころは転がって、水たまりに落ちて、無数の輪が出来た

爪を噛んでいる、くしゃくしゃの顔が、その中に在った。

涙が、濁った、泥水の中に落ちた

なぜだろう、汚い泥水の中に

雨上がりの、青い、青いエメラルドのような空があった


73.花一輪


君にあげましょ、花一輪

月の明るい夜に咲く、露を含んだ白百合を

君にあげましょ、花一輪

朝日の当たる家に咲く、赤い蕾の朝顔を

りんりん馬車に花つんで

夕日の丘の彼方から、雲に乗ってやって来る

私は宇宙の花屋さん、一人ぽっちの君だけに

心を込めて、送りましょ

※何なんでしょうかね、この能天気さ。受験まじかの筈なのに。


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