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浪人詩集  作者: 屯田水鏡
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浪人詩集(16)


浪人詩集(16)


60.みっちゃんの夢


りりりん、りりりん、鈴虫が

りりりん、りりりん、歌ってる

りりりん、りりりん、風鈴も

風にまかせて、歌ってる


きらきら、きらきら、空の星

きらきら、きらきら、踊ってる

きらきら、きらきら、みっちゃんが

空の小川で、泳いでる


くんくん、くんくん、子犬たち

くんくん、くんくん、べそかいた

くんくん、くんくん、子犬さん

静かに、静かに、してやって

天の川のみっちゃんの

夢は、まだまだ続きます


※この時の心境が全く思い出せない。まあ、いいか。


61.ビール


何ともやりきれないから、人は恋をする

何ともやりきれないから、俺はビールを飲む

何だか知らないけれども、それは俺にも分からないけど

何かが間違っている、いや、全てが間違っている

秋空はすき抜けるほど青く、道行く人は、みんな、愛嬌をふりまく

でも、大切なものが欠けている

何もかもが寂しい、なぜか空しい

そこで、人々は人生を感じる

空っぽの人生を、肌から感じる

だから、人は行動で、生きているという実感を、つかもうとする

だからと言って、決して満足はしない

常に空虚と不安が付きまとう、そして、それは消えることがない

寂しいかい、苦しいかい、でもね

苦しいから男は女を愛し、寂しいから女は男を慕う

ねえ君、それでいいじゃないか、君らは全て男と女

肩を抱き合うだけで、頬を触れ合うだけで

幸せで、そして、新鮮なのだ、だから、だからだよ、ねえ君

俺は、ビールを飲むのさ


※若いということは、良いね。頬を触れ合うだけで新鮮なのだ、なんて。

僕は嫁さんに「愛する人は、生涯、あなた一人です」と今でも言う。

すると嫁さんは答える「馬鹿じゃないの」と。


62.秋霖


むさ苦しく、曇った空に、憎しみを感じて、石ころを蹴れば

九月の生暖かい風に、日本の未来を感じる

しとしとと降り続く雨を、秋霖、だと、心に念じ

地学のノートを開いて、その正しさに、一時の安らぎを覚え

俺は天才だと自負する

ストリップを見ての帰り道

縦じまのワンピースを着た娘に、横しまな心を抱き

一本目のハイライトを口にくわえると

煙は夜のとばりに変わる

十本目のハイライトを吹かしながら

俺も年だとしみじみ思う

風に舞ういちょうに人生の悲哀を感じては

十七本目のハイライトに、これが最後だと、囁く

隣に掛けた母と子に一瞥を与えて、電車の窓を開けると

日本の秋が、俺の頬を撫でて行く


※二十歳を過ぎて、煙草と酒をよく飲むようになっていた。


63.駅前


駅前の通りで、若者が二人、立ち話をしていた

女みたいな髪をして、細いズボンをはいていた

一人が言った、俺、人生が面白くないんだ

もう一人も言った、俺もそうなんだ

私は、何も言わずに、その脇を通り過ぎた

私は寂しかった、近くの公園では

子どもたちが、駆けたり、跳ねたり、転がったり

いつまでも、飽きもせずに

シーソーのそばで、赤い母は子どもを見つめて、笑っている

世の中は、一つの曲がり角に、差し掛かっている


※実を言うとこの頃、僕は就職をしていた。小さな鉄工所であった。

三か月ほど、勤めたであろうか。僕の仕事は鉄板をくりぬいて巴形

や円形や卍型の部品で、カムの一部となる部品を作る、単純作業で

あった。ある機械メイカーの下請けであったが、僕の仕事で作られた

部品は、作業手順を省いていたので、全て返品されたことがあった。

僕は、仕事に対する、自分のいい加減さを、思い知らされた。

社長は、七十を過ぎたやや痩せた紳士であったが、僕を叱責することは

一度も無かった。小さな町工場で、何度か、返品の原因を作った僕は、

かなりの損害を与えたに違いない。

僕が、鉄工所をやめようと決めたのは、小さな出来事が原因である。

鉄板を打ち抜く機械を調整しようとした時、どう言う訳か、機械が

勝手に動いて、調整用の鉄の棒、直径二センチで長さが三十センチ

ほど、が、僕の耳をかすめて、飛んで後ろのモルタルの壁を壊した。

集中力がなく、いい加減な僕には、その仕事は向いていないことを

自覚したので、すぐ退職して、また、予備校に通った。

僕を、育てようと、温かく見守ってくれた、老社長には、今も感謝

している。生きておられれば、百歳は、とっくに超えておられる

だろうから、多分、この世には、おられまい。

僕も、この頃の若い奴らは、なんてことは言わずに、何かの手助けが

できたら、と思うのである。


64.悦ちゃん


今年は何だかいけそうな気がします

でも、一人でじっとしていると、イライラします

花を見ても、月を見ても、美しいとは思わなくなりました。

英語の単語とか、数学の公式が気になるからです

隣の悦ちゃんはもう三つになるのだそうです


※思えば、僕が浪人生活に入ったのは、悦ちゃんが生まれた

頃であった。


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