浪人詩集(10)
浪人詩集(10)
45.時計の音に
時計の音に目を覚まし、おびえて空を見上げても
そこには鳥が飛んでるだけで、夢の続きは終わりです
時計の音に誘われて、床についても起きている
夜の世界は黒の黒、夜の恐怖は僕のもの
昼の苦痛も僕のもの、生きる希望も僕のもの
針のように鋭くて、紙のようにぱさぱさで
死人のように冷たくて、山のようにでっかくて
宇宙のように小さくて、海のように暖かい
それは君なの、私なの、それでも地球は回るのに
生きているのと死んでるのとは
どちらが下なの上なのさ、でもこれだけは言えるのさ
生きることも死ぬことも、全て人生なのかしら
※理解不可
46.綿雪の降る日
ひらひらと舞うように雪が降る
風に誘われて雪は踊る
松の針葉を震わせて、ひらりひらりと降りて来る
一つ一つがそれぞれに、思い思いに降りて来る
楽しそうに、悲しそうに、苦しそうに
雪たちは、灰色の空に踊る
地面の上にふわりととまる、そして消えて行く
土に吸い込まれるように、短い命よ
雪は降る、楽しそうに、悲しそうに、苦しそうに
そして、土の中に消えて行く
雪は何も言わずに、そのつかの間の、命をつくし
空に舞う、宙に舞う、天女のように、その純白の姿を震わせて
雪の乙女は、天に咲く、乙女たちよ、舞え、命の限りを惜しめ
その哀しき、はかない命を、精いっぱい生きよ
その美しい、短きがゆえに、なおさら美しい
その姿を天にしばし留めよ・・・・
雪一片、枯草の上に落ちにけり
おお!見よ、一片の雪の下を、小さくうずくまっている、つくし
春はもう、すぐそこまで来ているのだ
※どうも、青春時代という奴は、死というものを甘美に感じるものらしい。
女々しい詩だ。ところで「女々しい」というのは差別用語なのだろうか。
辞書を引くと、柔弱である、いくじがない、未練がましいなどとある。
一方で、「雄雄しい」とは、男らしい、勇ましい、健気とある。
どう見ても、「女々しい」は、けなし言葉で、「雄雄しい」は、褒め言葉
に見える。
ついでに、僕は、高校時代には柔道をやっていて、外見は極めてバンカラ
であった。
外見で、人を判断してはならない。
47.二月の夜
そうなんです、やっとわかったのです、希望とは、意志と夢なんです
何だって、なんだって、良いじゃあありませんか
私は今やっと分かったのです、私の才能が、私の弱点がそして、私の希望が
私が小さなことに苦しんでいても、世の中は、年月は、少しも待ってくれま
せん、でもよいのです、それでいいのです、何と言いましょうか、運命と
いいましょうか、つまり、仕方のないことなのです、私は怖かったのです、
恐ろしかったのです、私の運命、いや、人間の未来、いや、いや、そうでは
ありません、死、そうです、死について考えるとき、もっと言えば、寿命を
終えた時、さらにその次を考えるとき、私は怖かったのです、何と言いまし
ょうか、胸が苦しくなるような、また、息のつまりそうな、じんじんと、地
の底からわきあがってくる、あの何とも言い表しようのない、あの恐怖です、
人類誰もが抱えている、不安の混じった恐ろしさなのです、いや、いや、
人類と言えば、何となく集団じみています、そうではないのです、自分一人
が死ぬのではない、みんな死ぬのだというのは、理屈ではありません、それ
は、言い逃れです、人間は生まれてくるときも、生活する時も、本来、一人
ぼっちではありませんか、まして、死ぬときは本当に孤独なのです、そして、
その先は無です、それなのです、私が芯から恐れるものは、胸を掻き毟られ
るような恐怖は、その永遠の無なのです、あなたも、幾たびかは、その底知
れない不安に襲われたことがあるでしょう、私が自分のことを、ああ、人間
だなと感じたのは、中学生の頃、初めて自分のレントゲン写真を見た時でし
た、私は、自分の醜さに、ほとんど嘔吐をもよおすほどの驚きを感じたので
す、人間には、肋骨があり、肺があり、胃があることを知ってはいました、
しかし、それが自分にあろうとは、そうなんです、うかつにも、夢にも思っ
てはいなかったのです、その時私は、一皮はいだ人間の姿を見る思いがしま
した、それからなのです、私が自分自身の身体を観察するようになったのは、
私は明らかに人間でした、また、人間以外の何ものでもありませんでした、
ごく、普通的な人間でした、その頃からだったと思います、私の人間としての
苦しみや恐怖が始まったのは、でもそれは、人間ならだれもが有する、苦しみ
であり、恐怖なのです、でも考えてみると、それらを有する私たち、いや、私
こそは、本当に幸せなのかもしれません、なぜなら、死を恐れるという
感性は、人間以外の動物では有することのできないものでありましょう
から、考えてみれば、不思議なことだらけです、なぜ、私は人間なので
しょう、なぜ、私は生まれ、何のために生き、死ぬのでしょう、なぜ、
ものごとには法則があるのでしょう、なぜ、宇宙があるのでしょう、
人間とは何なのでしょう、生きていることと、死んでいることは、どう
違うのでしょう、生きていることと、死んでいることはどちらが真の
世界なのでしょう、なぜ、人間は死を恐れるのでしょう、まだ、まだ、
数限りない疑問があります、人間はその疑問をいとも簡単に片づけて
しまいます、例えば、私が2+3は何だと聞いたら、人は誰でも5だと答え
るでしょう、しかし、なぜそうなるのと聞いたら、私に満足のいく答えを与
えてくれる人はいないのです、それは、単なる約束事でしかありません、
世の中の全ては、約束事、いわば、仮定の上に成り立っているのでしょう、
ならば、真実は、一つも無いのです、私たちは、なにか、吊り橋でも渡って
いるようなものなのです、そこで、私はやっと、満足するのです、まして、
生とか死とかいうものは、人間の造り上げたものなのです、また、死という
恐怖から逃れるためにはどうしたら良いのでしょう、もしも、死について
何の恐れもを抱いていない人がいたら、その人は、自分をごまかしているの
でしょうし、人間について真から考えていない、人間らしからぬ人です、また、
人間としての資格もありますまい、また、その不可思議な生と死の問題に、
正面から取り組んだとしたら、その人は正気を失ってしまうか、または・・・
兎に角、正常には生きていけないのでしょう、不安を救えるのは宗教だけな
のかもしれません、宗教を魂から信じることが出来れば幸せです、でも、今の
私には、誰かの話すことの一言、一言が信ずることが出来ないのです、まして、
宗教家の言うことなど━私がここで信用できないと言っているのは、世の中
すべてが仮定からなっていて、そのあやふやな土台の上に立つものは信用で
きないという意味であって、例えば、「あなたの言うことは信用できない」
といった、俗に言う信用とは、少し意味が異なる━とても信用できないのです、
私には、やはり、慰め、こじつけのように思えるのです、宗教を信じる人にも
時には、そんな不安が起こるのではないだろうか、なぜなら、生来の性質から
考えるとき、常に疑いを持つものだと思うからです、私は、ある時、死んだ後
のことを考える代わりに、生まれてくる以前のことをあれやこれやといろいろ
想像してみました、いくら思いを巡らしても、そこにはただ、とてつもなく広
い、宇宙など比較にならないほど広い暗黒の世界、世界というのが正しいのか
どうかは知りませんが、とにかくそんなものなのです、そして、そこには、私
の存在を見出すことが出来ません、無なのです、そして、そこは、私の想像す
る死後の世界と同じなのです、私は自分の生きて来た人生を振り返ってみまし
た、楽しい思い出、苦しい思い出がたくさんありました、ですが、私の覚えて
いるものは、ただ、断片的な、その場の情景だけです、情景と情景の間のこと
は、全く分かりません、暗黒ではありませんが、明らかに、無なのです、そし
て、今の私をどうしようと、その頃の私には、何の変化も起きません、つまり、
その時の私と今の私は、全くの別人という他ありません、こういうと、あなた
は、私のことを「君は頭が少しおかしい」というでしょうが、私に言わせると
「あなたこそ少しおかしい」ということになるのです、世の中すべてが、仮定
によって成り立っている以上、何を言っても、何を思っても、それが誤りだと
は言えませんし、同様に、真実だとも言えません、あるいは、あなたも私も
真実なのかもしれません、この様に考えますと、全てが良いようで、全てが
悪いようで、結論を出すことなど、到底、不可能に思えますし、また、出し
てはいけないのではないでしょうか、結論はそれぞれの心の中に在るのでは
ないでしょうか、この世は、人類が生きているのではありません、人間一人
一人がそれぞれ異なった人生を送っているのです、あなた一人の、私一人の
人生なのです、いわば、異なった世界に住んでいるのです、さらにいえば、
この広い宇宙に、あなたは一人で生活していつのです、考えて見ますと、
私の言ったことには、相当の矛盾があるかもしれません、しかし、私は大胆
にも断言します、世の中には、真実も虚偽も無いのだと、あるのは、ただ、
矛盾だけなのだと、これであなたにも分かったでしょう、そうなのです、
希望とは夢と意志なんです、何だっていいじゃありませんか、どうなったっ
ていいじゃありませんか、分かりましたかあなたの才能が、あなたはあなた
の弱点を充分納得しましたか、あなたがどうしようと、どうなろうと、
流れ過ぎるこの世は、待ってはくれません、しかし、何となく真実を見た気が
しませんか、何となく、勇気がわきあがるような温かさを、体に感じませんか、
兎に角、もう一度じっくりと考えてみて下さい、私は今、満足しています、何
といいましょうか、言い表しようのない、安楽さが私を包んでいます、最後に
一言だけ言わせてください、「・・・・・・・・」
※すっかり忘れていたけれども、こんなことを思っていたのですねえ。
一体何を言いたかったのでしょうかねえ。全く意味がつかめません。
良くもまあ、こんなつまらない文章を飽きずに長々と書けたものです。
未熟で身勝手で、しかも自己矛盾に満ちています。
ですが、詰まらないことに悩んでいる、当時の私を思い出して、ちょっと
愛おしく思えます。この頃は生とか死とか考える時代なのでしょう。
真剣に考えている割には言っていることは的外れなのですねえ。
大人になると、この様な根源的なことは考えなくなります。
明日までに仕上げる仕事のこと、とか、主任からパワハラを受ける、とか
なぜ昇任しないかと、嫁さんに責められる、とか、毎日のストレス対応に
精一杯になるからです。
ですから、久し振りに若い時を思い出すと、懐かしくなるのです。
一つだけ分かったことは、残念ながら、この時と現在を比べると、
僕の文章表現力は少しも進歩していません、実に腹立たしいことです。
次のように言わねばならないでしょう。
こらあ、そんな時間があったら、英単語の一つも勉強せんか!
お前のその体たらくが今のこの俺を作り上げたのだぞ!