浪人詩集(1)
箪笥の引き出しを開けて、ガラクタを片付けていたら、数冊の、古ぼけた大学ノートが出てきた。
その一冊には、浪人詩集と書かれている。
そう言えば、大学受験に失敗した時に、何となく書き始めたなあ、と懐かしくなって、ページをめくると、拙い文章が並んでいて、おまけに、誤字脱字も多い、例えば、飛行機がサハラ砂漠に墜落した、と書くべきところを、飛行機がサハラ砂漠に堕落した、と書いている。
墜落と堕落では、大きな違いがある。
だが、人生の黄昏を迎えた今、遥か昔に書き留めたそんな拙い文章が何とも懐かしい。
私━妻に言わせると、才能が無いくせに自己顕示欲の強い私━は、それを誰かに読んでもらえたら、面白いかもしれない、と考えた。
妻は、私が時々、小説を投稿していることを知っているので、私のことを疑って、「まさか、私のことを書く気じゃないでしょうね、それは絶対だめだからね」と、すごい剣幕で、念を押す。
この浪人詩集を書いたのは、妻からひっかけられる随分前のことだから、そんなことは無い。
読み進んでいくと、目も当てられない程、意味不明で、思考過程は思い上がりと、独りよがりに満ちて、赤面する思いである。
でも、現在、当時の私と同じ世代、つまり、十八歳から、二十歳代前半の人が読んだら、ある種の共感または不快感を覚えるかもしれず、それはちょっと面白いかも、と思うのである。
1.俺の道
俺の道がここにある
いばらの道がここにある
泥沼の道がここにある
遠くに針の山が見える
その山の上を道は続いている
この道は苦しかろう
この道は悲しかろう
この道は寂しかろう
しかし、俺の道はここにある
だから俺は胸を張って、大手を振って、
しっかりと見つめて、
俺の道を歩いて行こう
2.朝が来た
遠くの空から朝がきた
僕の好きな朝が来た
みんな一緒におはようさん
今日もきっと良い天気
山の向うの世界から、
朝がにっこりおはようさん
今日もきっと良い天気
3.バラ
君、君、早く起きなさい
そして、庭に出てごらん
一人で静かに咲いている
庭の小さな白バラを
そっとそっと見てごらん
こくびをかしげているでしょう
そして、おはようと言ってごらん
はずかしそうに下をむき
ニッコリ君にうなずくでしょう
君もニッコリ笑っておやり
白い可愛い花びらに、そっと口づけしておやり
清く可憐な美しい朝のにおいがするでしょう
花はいつか散るけれど
君はいつもみておやり
※まだ、浪人生活を、楽しんでいる様子がある。
この「バラ」を読むと、臍の辺りが痒くてしようがない。
飢えていることが良くわかるのである。