第二節 身内の中の敵
一つの事実として、俺たちの、いや、メシュの存在が組織──シュカレメルスにばれた。
この事実は俺たちにとってかなり大きかった。
これまでのように楽な旅ではなくなるかも知れない。
なにせ俺たちは、奴らから見れば、メシュという、長年かけて育てた、いや、生成した暗殺者を奪った上に二番を壊した敵ってわけだ
何らかの報復があってもおかしくはない。
相手は軍事結社だ。
これまでのならず者たちとは違う。
メシュのような、非人道的な手段で育成した、化け物じみた強さを誇る戦闘員は数多くいることだろう。
今まで以上に警戒して、気配に気を使わなければ──。
「ティル、疲れた。おんぶして!」
いきなり背中に重みと温もり。
ユキがこうして俺の背中に飛び乗ってくるのは、あの時以来いつもの事になってしまった。
「お前元気じゃないか、降りろ!」
俺が全身を揺さぶって振り落とそうとする。
「別にいいじゃなのよ。あたしそんなに重くないでしょ?」
ユキは振り落とされまいと、しっかりと俺の首に手を回し、足は俺の胴をしっかり挟む。
ここまで密着されると、かなり困る。
相手がユキなら、これ以上困ることは中々見つからない。
「ほらほら、体は嫌がっても心ではいやらしい事考え始めてる!」
「言うなっ!」
俺は更に暴れ、ユキは更に強く抱きつく。
そんなスパイラルが続き、いつも俺が根負けする。
ユキの俺やメシュへのなれなれしさは、もう半端なくなってきた。
元々の性格なんだろう。
まあでも、今のも含めてこういう無条件の明るさに救われているところも多くある。
いつ、どこから狙われるか分からないというのは、精神的にかなりの負担だ。
ユキがこういう振る舞いをしてくれるおかげで、それがかなり軽減されているのも事実だ。
「え? 駄目! ここはあたしの場所!」
俺の背中で、俺の耳元で、そんな声を出すユキ。
そんなに大声出さなくても聞こえるぞ、と言いたかったが、話し相手は俺じゃないようだ。
そばにいるメシュが、ユキを見つめている。
「……それは、そうだけど……」
何の話をしているのかは分からないが、ユキが困ったような声を出すのは珍しい。
「分かったわよ! ほら!」
ユキが、俺の背中から飛び降りる。
「……?」
どういう話し合いになったのかさっぱり分からない俺だけが、状況を測りかねていた。
メシュが俺に近づき、両手を俺に向ける。
そんな事をされても、俺にはさっぱり分からない。
「……? どういう事だ?」
俺はユキに聞いてみる。
「知らない」
絶対知らないわけがないであろうユキが、少し不機嫌そうに言ってそっぽを向く。
メシュは両手を俺の前でぶらぶらさせながら、恐らく困っている。
どうすればいいんだ、この手。
抱きかかえればいいのか?
「……ああもうっ! 分かるでしょうが! 背中向いてしゃがんであげなさいよ!」
ユキがイライラしながら言う。
分かるかよ、と思いながら俺は言われたとおり、メシュに背を向けてしゃがむ。
すると、俺の背中に暖かい重み。
首には細くて柔らかいものが巻きつく。
ああ、おんぶして欲しかったのか。
それは分からない俺が馬鹿だったな。
俺はメシュがしっかりと俺に体重を預けるのを確認し、立ち上がる。
メシュはユキより更に幾分か軽く、背負いやすかった。
服がひらひらしている分、手や背中がこそばゆいが、それは仕方がないか。
「行くわよ」
不機嫌そうなユキが歩き出す。
こいつはこいつでよく分からない。
遊び場を奪われたガキのような気分なのだろうか。
「違うわよっ!」
ユキが俺に何かを投げる。
「……?」
それは、ユキの荷物だった。
「それくらい持ちなさいよ。あたしと荷物背負ってたんだから、そのくらい軽いでしょ?」
「いや、まあ、理屈的にはそうだが、道理的にはどうだろうな?」
「うるさい! ティルの馬鹿!」
何だかよく分からないが機嫌が悪い。
まあ、そういう時もあるだろう。
しょうがないので、俺はメシュを背負い、ユキの荷物を持って歩いた。
「おっとと」
俺が少しふらついたら、メシュが、ぎゅっと俺に強くしがみついた。




