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おさない、かけない、しゃべらない  作者: 真木あーと
第三章 悪い奴と口の悪い奴
10/18

第三節 マッチ売りの敵

「今日は久々に宿で眠れるな」

「そうねっ!」

 こくこく

 俺たちは三人ともテンションを上げていた。

 俺たちが旅で歩いている道は王城へと向かう街道であり、多くの旅人が行きかう。

 だから、そこに点在する町にはほぼ必ず宿屋が一軒はあり、その気になれば毎日宿に泊まりながら旅を続けることが出来る。

 だが、町の場所というのは必ずしも全ての旅人の歩く速度に合わせて点在しているわけではない。

 歩いて程なく次の町に到着する事もあるし、ほぼ一日歩いてもやっと一つ町があるだけの事もある。

 まあ、俺たちは地図を持っているし、計画的に今日はこの町まで行こう、と決めて歩くのもいいかもしれない。

 だが、俺たちの旅は観光でも放浪でもない。

 シュカレメルスという敵の存在も分かり、一刻も早くメシュを連れて行かなければならないだろう。

 夕暮れ時にちょうど町にたどり着くならそこで泊まるのはいい。

 だが、まだ陽も高い時に到着した町に滞在しよう、という事は考えない。

 その場合は野宿を選択するのだ。

 だからこそ、今日は、あの大きな町以来の久々の宿となる町に到着した。

「ここはあまり大きな町じゃないし、宿も期待出来ないが、ま、行ってみるか」

 小さな規模の商店通りを歩きながら、俺が言うと、ユキとメシュが頷く。

 辺りを見回すと、それなりに商店が賑わっている・

 街道沿いの町は、基本的には普通の町だ。

 俺の住んでいた町と大して変わらない、それぞれ農業やら工業やらで生計を立てている。

 だが、それと同時に街道を通る旅人が多い事から、それらを相手に商売をする者も多い。

 それらの者達が商店を開き、食堂を開き、大いに賑わっている。

 ならず者から高貴な者まで街道を通るため、町の人間はそれらの人間を相手にする事に慣れている。

 だから、知らない者がうろついていただけで不思議そうに見られる俺たちの町とは少しだけ住民の様子が違う。

 垢抜けている、とまでは言わないが、どことなく俺たちよりも都会的な感覚を持っているのだ。

 俺たちは商店街の辺りを見回していく。

 商店が並んでいると言う事は、この辺りに宿があるということが多いからだ。

「あの、マッチはいりませんか?」

 宿を探していると、女の子から声をかけられる。

 肩くらいの長さの茶色い髪の、ユキと同じくらいの歳の女の子だ。

 背は、俺よりはもちろん低いが、ユキよりは多少高く、スラリとした身体な上、出るところは出ている、という理想的なプロポーションをしている女の子とも言ってもいいだろう。

 さらさらとしたブラウンの長い髪の後ろを、よく似合う大きめのリボンでまとめている。

 俺の町の女の子達よりは若干垢抜けた感じがあり、見た目も仕草も可愛い。

 上目遣いで俺を見上げる様子は、商売と言うよりも懇願に近いものがあった。

「マッチってなんだ?」

「火をつける道具です。このように小さなものですが、ちょっと擦るだけで火がつく便利なものです」

 女の子は、見えないような小さな棒を俺に見せる。

「ほう、確かにそれは便利だな」

 確かに野宿の多い旅人にとって、火をつけるということは一つの仕事でもある。 だが、そのために大きな荷物は用意できないので、その場で調達することになる。

 そう考えると、マッチというものはとても便利なものだろう。

 だが、俺にはメシュの魔法という、もっと便利なものがある。

 他の奴らには便利かもしれないが、俺には必要ない。

「ま、俺はいい。他の奴に売ってやれ」

 俺は手をひらひらと振って通り過ぎようとした。

「お願いです! 買ってくれないと、継母にぶたれるんです!」

 泣きそうな表情で女の子が懇願する。

 その悲壮な表情がまた可愛い。

 多分、この子にマッチ売りを命じた継母とやらはかなり厳しいんだろうな。

 売上が低ければ殴られるんだろう。

 とは言っても、便利な物だし、俺一人に固執してる間に色々な人に声をかけて売って回ればそれなりの売上は得られると思うんだがな。

 それが出来ない不器用な子なんだろうか。

 ……ま、仕方がないか。

「分かった、いくらだ? 三箱買おう」

「ありがとうございます!」

 女の子は嬉しそうに頭を下げる。

 俺は言われた金を払い、何度も礼をする彼女と別れた。

「あんたって本当に人のいいお人よしの田舎もんね」

 ユキが心底呆れた声で言う。

「仕方がないだろ? あれであの子が救われれば安いもんだろう」

 確かにお人よしの自覚はあるが、別にそれで誰も困るわけでもない。

「厳しい継母なんていないわよ」

 ユキが腕を組んで言う。

「いや、そんな一言で否定しなくても──」

「あたしは心が読めるのよ。あの子はあんたの事カモとしか見てなかったわよ。マッチの事知らない馬鹿がいた、とかね」

 ユキが呆れたように言う。

 確かにこんなに便利なものなら、旅人の間には既に広まっていてもおかしくはない。

 それを知らなかった俺は確かにカモだ。

 だとしても、あの子が継母にぶたれるのには変わりはない。

「あのね、こういう町にはああいうこと言ってお金を儲ける子がいくらでもいるのよ」

 ユキが吐き捨てるように言う。

 そう言われると、俺は何も言い返せない。

 ユキの方が歳下だが、そういう知識や経験では田舎で剣修行をして来た俺よりも遥かに上だろうし、おそらく間違っていないのだろう。

「それに、もし本当に継母がいたとしても、あんたは一日の売上を助けただけに過ぎないわ。明日にはまた売って来いって言われて、売れなきゃぶたれるのよ」

 確かにそうだ。

 ユキの言うことに何の反論も出来ない。

 だが、一日助けただけでも、それでもいいじゃないか。

「今日三箱売れたら、じゃあ明日は五箱売って来いって言われるわよ。あんたは無駄にノルマを上げただけ。ま、継母なんていないだろうけどね」

 俺のただの自己満足。

 どっちにしろ、俺は誰かのカモになったって事だ。

「まあ、もうどうでもいい。俺は騙されててもそうでなくても、一人の困ってた女の子を助けたって事にしておいてくれ」

 俺は疲れたように言う。

「まあ、別にあんたがそれでいいならいいけどね。……あたしだってあんたのお人よしに助けられたところもあるし」

 ユキの小さな声は、雑踏の中、聞き辛かった。

 そうしている間に俺たちは宿に着いた。

「ベッドが一番大きな部屋で!」

 ユキが元気よく注文をつける。

 今夜は俺払いなのに構わずだ。

「かしこまりました。どうぞこちらへ」

 俺は店主の「このハーレム野郎が」という視線を浴びながら、奥に案内される。

「ベッド広い!」

 部屋に入るとユキはそのまま思いっきり飛び上がり、ベッドの上に飛び降りた。

 そして、端から端までごろごろと転がりまわる。

 メシュもベッドの端に座りそのまま寝転がり、少し遠慮がちにごろごろ転がる。

「いや、確かに広いベッドだし、三、四人は眠れそうな大きさだが……これしかベッドないぞ?」

 俺がその事実を告げると、ユキの動きが少しだけ止まる。

 メシュがこちらを向いて、首を傾げる。

 おそらく「それが何か問題でも?」と言いたいのだろう。

「……ま、そうね。別に大した問題じゃないわよね」

 ユキもしょうがないわね、という表情で起き上がる。

「いや、大きな問題じゃないか。同じ部屋で寝るのと、同じベッドで寝るのとは大きく違うぞ!?」

「一緒じゃない?」

「ちがうっ!」

「どこが?」

「どこがって……」

 密着度とか、色々違うだろうが!

 こいつは分かってて言ってるからたちが悪い。

 まあ、仕方がない。

 こうなった以上今更他に部屋を取るのも面倒だし、二人が問題ないと言うならそれでいい。

 この部屋で寝るしかないなら同じベッドで寝てやろう。

 俺は覚悟を決めた。

「分かった、じゃ、俺はこっちの端で寝るから──」

「あんたは真ん中よ」

「何故!?」

「あたしとメシュがそう決めたから。ね、メシュ?」

 こくこく

 メシュ、お前、そっちについたのか……?

 表情こそないが、それがあったのなら今メシュは笑っているだろう。

 メシュがどんどんユキに染まっていく。

 嬉しいが寂しい。

 逃げられない状況。

 俺は覚悟を決めなければならないだろう。

「分かった。好きにしろ」

 俺は努めて落ち着いた声で答える。

「もちろん。あ、灯りちょっと消して。もう服脱ぐから」

「せめて服着て寝ろよ!」

 俺の落ち着きは一瞬で吹き飛んだ。

「嫌よ、あたしはベッドで寝るときは服脱ぐんだから。服に変なしわがついたらどうするのよ」

「前に俺に見られてかなり嫌がってたじゃないか!」

 俺は前に宿に泊まった時のことを思い出す。

 あの時俺は、ユキの下着姿を見てしまい、かなり恨まれた覚えがある。

 その後全裸を見るという、それ以上の大事件があったのでそれ自体忘れていたが、確かにあの時に下着姿を見られて恥ずかしがっていたのだ。

「あー、なんかねー、もうその後全部見られたしね。もう下着くらいどうでもいいやって思うようになったのよ」

 ユキが遠い目をする。

「そこはなんかもう、自分をもっと大切にしろ!」

「あ、メシュもそんなドレスみたいな服だと皺になるでしょ? 脱いで寝れば?」

 こくこく

「話を聞けっ!」

「いいからさっさと寝るっ!」

 どん、と押された俺は、バランスを崩しベッドの上に転がる。

 ベッドの掛け布団はメシュによってめくられていて、俺がベッドに乗っかった時、再びかけられた。

「お前ら息が合ってるなっ!」

 俺がそう言っている間にも、両脇から二人が潜り込んでくる。

 そして、この広いのに俺のそばにぴったり密着する。

 二人ともだ。

 逃げ場がない。

「広いんだからもっと離れろ!」

「嫌よ隅っこなんて。あたしも真ん中で寝たいわよ」

「じゃ、真ん中譲ってやるから! 俺が端で寝るからっ!」

「駄目」

「何故!?」

「そんなこと……言えない」

「急に乙女になるな!」

 こうしてユキに怒鳴っている間にも、反対側のメシュはぎゅっと俺の腕にしがみついている。

 もちろんユキもメシュも宣言通り下着姿だ。

 そんな彼女たちが、俺の腕にぴったりと密着してくる。

 そこで何も考えないのは不可能というものだ。

 何度も何度も言ってきたと思うが、何度も言わせてもらおう。

 俺は健全な男子であり、下着姿の女の子に、しかも二人に密着されれば、色々な問題が発生する。

「さ、明日も早いし、もう寝るわよ。おやすみ」

「分かった、もう寝るから、顔を寄せてくるのはやめてくれ……」

 ユキの顔が俺の顔のすぐ隣にある。

 俺がガードのために手を広げた隙にその上に身体を乗せ、肩などは既に俺の肩の上に乗っかっており、密着どころの騒ぎではなくなっていた。

「くー……」

「嘘だろ! まだ寝てないだろ!」

 他人が見たら、俺がユキの身体を抱き寄せているようにも見えるだろう。

 だが、下手に腕を動かすと、どこに触るか分からないので動かせない。

「メ、メシュ!?」

 俺の声を聞いていたメシュは、何を思ったのか、自分も同じように顔を寄せてきた。

「落ち着いてくれ、メシュ。そんなに顔を寄せたら寝にくいだろ?」

 ふるふる

「いや、寝にくくなるって絶対! 今日はやめとこう、な?」

 ふるふる

 俺の言うことを拒否するメシュ。

 ああ、こんなところで人間らしくなっていくメシュを感じることになるとは。

 嬉しいが、それ以上に……いや、まあ、嬉しかった。

 俺は身動き一つ出来ないままに両脇からの寝息を聞く羽目になった。

 いや、こんな状況で眠れるわけがない。

 何故眠れないか?

 言うまでもない、興奮してしまうからだ。

 仕方がないだろう、一緒に旅をして、それなりに仲のいい可愛い女の子二人が、下着姿で両脇というか両肩で寝ている状況だ。

 眠れるわけもない。

 嬉しい、嬉しくないで言えば嬉しい。

 とても嬉しいし、少し前の師匠との二人暮らしを考えると夢ではないかとも思う。

 だからこそこんなに興奮しているのだ。

 落ち着いて眠れるほうがどうかしている。

 まったく、メシュまでもこんなことするようになって。

 ユキの影響を受けすぎだ。

 そりゃあ、唯一会話できる人間だから仕方がないんだけどさ。

 まあ、人間の、同年代の女の子らしくなって来たのは悪い傾向でもない。

 モデルがユキだから少しわがままになるのは仕方がないが、少なくとも人間らしい感情だからな。


 かちゃ


 そんな事を考えながら寝息を聞いていると、何か、物音が聞こえて来た。


 かちゃかちゃ


 何だ?

 それは、窓の方からだった。

 窓と言っても、ガラス戸じゃない。

 多分この辺りはガラス戸も高価なものなのだろう。

 窓というのは、小さな木のドアのようなものだ。

 開ければ明かりが入るが、外気も入るという簡素なもので、まあ、夜寝て朝起きるだけの部屋にはガラス戸など必要のないものなんだろう。


 ばきっ!


 何かを壊す音。

 おいおい、穏やかじゃないな。

 何事だ?

 そう思い、その窓の方をじっと見ていると、そこから薄明かりが漏れる。

 明るい月が窓から顔を出す。

 つまり、窓が開かれた。

 そこから覗く人影。

 それが動いたかと思うと、素早く室内に侵入して来た。

 俺は静かに警戒する。

 シュカレメルスの暗殺者(アサシン)かも知れない。

 それ以外の何かが俺たちの部屋に侵入してくる理由がない。

 そうなると下手に動くのは得策じゃない。

 暗殺者(アサシン)ならメシュクラスの敵だ、うかつに手は出せない。

 それに侵入してくるという事は、それなりに周到に準備して忍び込んでいるはずだ。

 そこまでするには、何か目的があるはずだ。

 俺たちを殺したいだけなら、宿ごと燃やせば済む。

 おそらく、メシュの回収を諦めていないんだろう。

 侵入者はそっと中を歩き回り、俺たちの荷物を物色し始めた。

 何故だ?

 メシュの回収以外にも何かあるのか?

 そんな事を考えていると、メシュが目覚め、状況に気づく。

 攻撃をしようとするメシュの肩を止める。

 まずは様子を見てからだ。

「けっ、これっぽっちしかもってねえのかよ。クソハーレム野郎の癖してシケてやがんな。金のねえクズに生きる価値なんてねえんだよ、このカスが」

 汚い罵りの言葉。

 それに違和感を持ったのはおそらく俺だけじゃない。

 メシュには分からないだろうが、後ろでいつの間にか起きているユキなら同じように思っただろう。

 いや、この程度の口汚さならいくらでも聞いたことはある。

 俺のいた道場に立ち寄る者の中には、どうしようもない荒くれも多くいた。

 それらからこの程度の言葉なら聞いたことがある。

 俺が違和感を持ったのは口調が声と全く合ってないからだ。

 その声は、女のものだった。

 しかもトーンの高い、どっちかと言うと可愛い感じの声だったのだ。

 何か違う、そう思った。

 シュカレメルスの者にしてはあまりにも隙が多すぎる。

 迷ったが、このまま放置するわけには行かない。

 だが、俺は真ん中にいるため、飛び出る事は出来ないし、メシュは相手を殺しかねない。

 俺はユキに、行って来るよう促す。

 メシュにはユキが逃したときのために、窓の前にいるように指示しておく。

 万一のユキの手助けは俺がやる。

「そこまでよ!」

 言うが早いか、ユキはベッドを飛び越え、侵入者に飛び掛る。

「! うわっ! てめえ、何しやがっ……! やめろっ!」

 勝負は一瞬でついた。

 ユキが侵入者を倒し、組み敷いて終わりだ。

「……くっ」

 侵入者はあっさり抵抗をやめ、おとなしくなる。

 俺は灯りを着けようとロウソクを手に取り、火を探すが、遠い。

 メシュを呼ぼうにも、まだ逃げる可能性がないとも限らない。。

 しょうがない、ここで夕方買ったマッチが役に立つ。

 俺は火をつけ、それで侵入者を照らしてみる。

「……お前は……!」

 それは夕方に俺がマッチを買った女の子だった。

「何してるんだよ、お前は」

 ほらね、だから言ったでしょ、と言いたげな顔をしているユキにイライラしたのもあって、俺はすこし怒る口調で言う。

「ご、ごめんなさい……継母がもっとお金持って来いって言うから、こんな方法しかなくって……」

 この期に及んで、同情を買おうとする侵入者の女の子。

 さっきの態度と口調を聞いてなかったら、少しは同情したかもな。

「いや、もう無理だから」

 俺は冷たい口調で言った。

「ちっ、マッチ三箱も買うハーレム野郎だから、もっと女に優しいと思ってたのに冷てえな! 心地よく騙されときゃいいんだよ! それで誰か不幸になるのかよ!」

 心の底から荒んでるな、この子。

「生憎俺はお人よしではあるが、心が広いってわけじゃない。金もそんなに持ってるわけじゃない。これ以上は困るんだよ」

 ま、被害もないなら許してやってもいいんだが、ここまで荒んでると少しは薬を与えなきゃならないだろう。

「だから、お前を許さないし許すわけにはいかない」

 色々言って脅して反省させるか。

「かと言って、このまま領主に突き出すわけでもない。その意味が、分かるな?」

 こういう奴はおそらく何度か捕まっていて、牢に入れられたりするのには慣れているだろう。

 だが、それがまだ幸せである事をおそらくこの子は知らない。

 こういう犯罪をしていれば、相手が悪ければ動けなくなるまで殴られ続けたり、そのまま殺されることも少なくない。

 女の子なら、それ以上のひどい目に遭わされる可能性も大いにある。

 もちろん俺たちはそんな事をするつもりはない。

 だが、今後続けていけば、いつかそんな日も来るだろう。

「……勝手にしろ。捕まった時から覚悟してんだ。分かってる」

 女の子は、おとなしく覚悟を決めている口調でそう言った。

「俺を、ハーレムに加えるんだろ? いいよ、加わってやるよ。好きにしろ」

 横を向き、少し恥ずかしげな声で、とんでもない事を言い出す女の子。

「でも、俺、こんな事してるけど……まだそんな経験ないから……初めてだけは優しくしてくれよな……」

「いやいやいやいや!」

 俺は大声でそれを否定する。

「俺はお前をハーレムに加えるとか以前に、ハーレムなんて持ってないんだがっ!」

 旅館に泊まる度に受けてきた誤解を、やっとここで弁解することが出来た。

「でも、女を両脇に侍らせて、しかもこんな格好にさせてる野郎が、ハーレム持ってないなんてありえねえだろ?」

 そう言えば、メシュもユキも下着姿だった。

 いや、あいつらが勝手に脱いだだけなんだが、傍から見れば俺が脱がせ侍らせているようにしか見えない。

「ありえるっ! ありえるんだよっ! ユキ、お前からも何とか言ってくれ」

 俺は彼女を組み敷いているユキに助けを求める。

「知らないわよ、ティルの馬鹿っ!」

「何でお前が怒ってんだよ!」

 ユキはすっと立ち上がり、さっさとベッドに潜る。

「メシュ、もういいわよ。寝ましょ」

 言われたメシュは、少しだけ俺を見ると、同じようにベッドに潜る。

「ティルって言のか。俺はファルカって言うんだ。おっと、私はファルカと申します、よろしくお願いします、ご主人様」

 ファルカと名乗る侵入者は、女の子モードに切り替えて挨拶をし、俺に寄りかかってくる。

 甘え方がユキのような強引でも、メシュのような不器用でもなく、そのまま愛撫してしまいそうになるほど自然だった。

「どうしよう、これ……?」

 俺は心底困っていたが、誰も助けてくれそうになく、暗い部屋で途方に暮れた。

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