しょうもない小説…炭酸編
大きな揺れが彼らを襲った。
それが収まった直後のことだった。
けたたましい警報が鳴り響いた。
「隊長、内気圧が上昇!」
なに、と隊長が貯水湖を確認した。
いつもはただ黒い貯水湖から泡が出ていた。
「なにが…現れるんだ…」
隊長は恐怖という予感に襲われていた。
「隊長ご指示を!」
隊長は顎を触り唸った。顎を触るのは隊長が作戦を考えているときの癖だった。
「貯水湖の回収作業を急がせろ!全力でやるんだ!」
隊長の指示に部下達は返事をする間もなく走り出した。
「隊長、第二波きます!3.2.1…いま!」
再び大きく揺れた。今回の揺れに隊長は尻餅を着いた。
「内気圧急上昇!このままでは危険です!」
くそ…と隊長は立ち上がりながら呟いた。
「回収班が危険です!撤退許可を!」
「わかった!回収班緊急撤退せよ!」
もうダメなのか…作業員達が諦めを感じはじめていた。
「アレを使おう…」
隊長が言った。
「まさか…アレを使うのですか!?しかしあれは最後の手段…」
「いまがその時だろ!!」
しかし…
「しかし、あれを使うにはブレイメンが必要になってしまいます。」
隊長がそれを聞いて笑った。
「ブレイメン…か。そんな言葉を聞くとはな…」
隊長は昔、部下と呼ばれていたときのことを思い出していた。
「ブレイメンは俺がやる!」
自分の隊長が言ったように、隊長は言った。
カタン、カタン。隊長はハシゴを登っていく。高くなる気圧に耐えるられる、対気圧スーツを着ているため、いつもの動きよりも遅く、そして慎重に動いていた。
「ザ、ザ…隊長…もうすぐです…」
あぁ…と隊長は軽く答えた。
ハシゴが無くなった、上を見上げるとハンドルが見つかった。
これを回せば…全てが終わる。
「隊長!内気圧限界値まで来てます!」
「いまからハンドルを回転させる。幸運を祈ってくれ。」
最後のアレ…それは内気圧緊急開放コックのオールオープンであった。
隊長が過去に一度だけ経験したことのある作戦だった。自分の隊長がそれを行い、隊長は消えた。
自分も…自分もその道を進むのか…と隊長は感じていた。だが隊長にはあの頃とは違う力が宿っていた。
仲間、部下、信頼、友情、希望、責任、緊張…全てがいま彼の力となっていた。
ハンドルを回していく。自分の息の音だけが聞こえる。沈黙の世界、そんなもの、この世界に存在しないんだな。隊長はこんなときにどうでもいいことを感じていた。
シュー…と音がなり始めた。
そのときが来たのだ…
「ブレイブメン…いや…俺は俺だ!俺に肩書きなんていらない!ブレイブメンなんてクソくらえだ!」
飛翔せよ!放たれるときが来たのだ!隊長の命は、隊長を守ってきた力が、その全てが解放され、全てを忘却し、消滅するときが来たのだ!
「ウォォォォォ!」
パン!!!
ジュワーーーーー・・・…
「うわ!コーラ溢れた!」
自転車のカゴで振られたコーラは炭酸が充満し、限界を超え、疲れきったように噴き出た。
「たいちょう…隊長……隊長!」
彼が目覚めたのは、青くただ美しいボールの見える暗黒世界であった。
周りを見回せば、元隊長や部下達の姿があった。
隊長は確信した。
全てに終わりはない、全ては全てに反芻し続けるのだと。