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ルール違反  作者: 石井至
7/13

第7話 心拍上昇中

「有名なのは俺じゃありません」

 山之辺がそう言った。クリリンが「何のこと?」って顔で俺を見た。仕方が無いから補足してやる。

「今年はこいつ以外にも前島ってやつが入ってきたんですよ。前島由浅ってやつが」

 すると、クリリンはちょっと考えるような顔つきをした。

「前島…って、貝掛の双子か?」

「さすが顧問!知ってたんですね〜」

「まあね〜」

 クリリンはあくまで軽い乗りで答えたが、まだ少し何か考えているようだった。

「…まだ…仕事っすか」

 俺が聞くと、クリリンは我に返って、それからしかめっ面になった。

「ま、いろいろとねえ…。手伝ってもらうわけにもイカンしねえ」

「じゃ、邪魔しないうちに帰ります。早く時間作って稽古に顔出してくださいね」

「ハイハイ、ま、期待しないで」

「待ってますよ」

 俺はそう言って教官室から出た。出口で直立不動の山之辺を促して歩く。

「4月入ってからコッチ、まだ来たこと無いけどあれが顧問のクリリン。頼りなさそうに見えるけど、実は頼りになるから」

「…ハイ」

「お前さ、本当に喋らないなあ。なんか話せよ」

 俺がそう言うと、山之辺は恥ずかしそうに顔を赤くして、頭を掻いた。

「話すの…苦手で…」

 それだけ言うのがやっとのようだ。由浅に手を出すなとかなんとか言ったときの勢いはどこへ行ったんだと思うと笑えるが、もじもじしている山之辺を見るのもカワイイといえばカワイイ。

「お前、いつもどうやって帰ってんの?」

「…自転車で…」

「じゃ、途中まで一緒に行くか?」

「…お願いします…」

 そんな感じで、繋がらない会話を交わす。

 …なんか…山之辺って、思ってたのと違うかも知れない。




 日曜日、由浅と近所のコンビニで待ち合わせをした。

「こんにちわ〜」

 私服の由浅は、男女の見分けがつかず、いつもの「不思議な感覚」が一層増す。由紀ちゃんの私服姿も見てみたいなどと考えた。

 いつものように山之辺が監視していたなら、またここで由浅にもちょっかいを出すフリをして遊べるのにな〜なんて思ったりもして…。

 コンビニから俺の家まで歩いていって、リビングに通した。母さんがジュースを持ってやってくる。

「いいよ〜、買ってきたから」

「何言ってんのよ、挨拶くらいさせてよ」

 そんなやりとりをしていると、由浅が笑った。

「お邪魔してます、お構いなく」

 由浅の笑顔に母さんはメロメロだ。

「かわいい子ねえ!アンタもこんなふうに育ったら良かったのにねえ」

「ああもううるさいなあ!」

 母さんを追い出し、由浅に謝る。

「ごめんな〜、でしゃばりで」

「いえいえ…確かお母さんも剣道されてましたよね」

 お、きたな。剣道オタクめ。

 …そうなのだ、俺の両親は警察官で、それぞれ剣道をしている。

「お前は剣道のこととなると本当になんでも知ってるなぁ」

 俺はちょっとあきれて笑った。

「ふふふ。先輩こそ」

 由浅の笑みは、なんだか怪しい雰囲気で。

「いや、俺は本当にそんな詳しくないだって。たまたま由浅が見たいものが家にあるってだけで」

 そう答えながら、俺はなんとなくドキドキしていた。

「そういや今日は山之辺とか由紀ちゃんとかは?」

 妙な雰囲気を払うべく、別な質問をぶつけてみる。

「由紀は…確か友達と遊びに行ってます。その子ももう少ししたら剣道部に入ってくると思いますよ」

「お、ナイス情報。それって可愛い子?」

 俺が嬉しそうに聞くと、由浅は露骨に嫌そうな顔をした。

「可愛いかどうかは…僕からどうこう言えませんけど」

 そう言ってから、付け足した。

「先輩、由紀を誘ったそうじゃないですか」

 俺はニヤッと笑って言った。

「誘った、っていうか…実際は会うたびにお茶に誘ってるけど、全く相手にされないの。兄貴から何かアドバイスない?」

 由浅は少し考えて答えた。

「由紀は堅い所があるんでねぇ、そうやって他の女の子が可愛いとかどうとか人前で言ってるうちはなびきませんよ。多分」

「あはは、そうか。じゃあもうちょっと本腰入れてみるかな」

「…本気ですか?」

 由浅が心配そうな顔をする。兄貴の顔だ。

「…顔はタイプ。性格は知らないから、もう少しいろいろ知りたい…ってとこかな」

「…顔はタイプなんですか…」

 由浅が更に複雑そうな顔をしている。それを見ていると、山之辺の似たような顔を思いだした。

「お前ら、面白いな」

「え?」 

 急にそう言った俺に、由浅が怪訝な顔をした。

「俺がお前と仲良さそうにしていると山之辺が心配するし、俺が由紀ちゃんにちょっかい出そうとするとお前が心配するし」

「…いえ、僕は別に由紀の心配はしてないですよ」

 由浅がそう言って、何か思い出したように笑った。

「由紀、なんか好きな奴がいたと思うんですよ…でも先輩が頑張るんだったら、それも見ものかな」

「え?そうなの?由紀ちゃん好きな奴いるんだ…」

 おお、ちょっとショックだ。

「そりゃいますよ、高校生なんだから」

 由浅が当たり前みたいな顔をして笑う。

「まさか、付き合ってるとか…」

「いや、付き合ってる奴はいないと思いますよ」

「そっか〜」

 俺はホッと胸を撫で下ろした。

 …っていうかさ、俺、思ったより由紀ちゃんに嵌まってないか?もっとテキトーな気持ちだったのに、今ちょっと焦ってる。

 そう思って由浅を見ると、余裕の表情でニコニコしていた。その様子が、いつも俺をはぐらかす由紀ちゃんの姿と、なんとなく重なる。

 …うっ…。

 こいつはこいつで、やっぱり可愛いし。

 …そうか、由浅の方が、由紀ちゃんより色気があるんだ。

 本当に変な双子…。


 

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