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ルール違反  作者: 石井至
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第6話 先輩と後輩

「なんだ、まだ帰らないのか?」

 部室の前で、由浅は座ったままだった。

「あの〜…」

 由浅が恐る恐る俺を見上げて言った。

「総司、また戻ってくると思うんです。荷物、中にあるし」

 俺はため息をついた。

「了解。もう帰れよ。俺が待ってるから」

「あ、いえそんな」

「今日アイツ怒らせたの、俺だしな」

 何か言いたげな由浅を立たせて帰らせる。

 …代わりに俺が部室の前でしゃがんでみた。

「あれ?阪中何してんの?」

 声をかけてきたのは女子部員の水原だった。同じ2年生で、去年は同じクラスだった。顔はフツーだけど、髪がキレイな奴。

 俺は鍵を見せた。

「一人、戻ってくるの待ってんの」

「あれ?鍵番はタカハシじゃなかったっけ?」

 そう言いながら、水原が俺の隣に座る。

「ま、いろいろあんのよ」

「ふーん。そうなんだ」

 水原が、ニコニコ笑った。髪が揺れて、いい香りがした。

「なんだよ、お前、シャワー浴びたのかよ」

「あたりまえじゃん。あんな臭いまんまで電車乗れないよ。女子はみんなシャワー使って帰るよ」

 …知らなかった。

「お前、髪キレイだなぁ」

 なんとなく、髪を一束、持ち上げて匂いを嗅いだ。

「ギャッ!なにすんのよ、阪中のヘンタイ!」

「なんだよ〜、いいだろ、減るもんじゃなし」

「バカッ!あんたに匂われたら減るわよ!」

 とかなんとかやっていたら、女子部員の軍団が現れた。

「あれ〜?阪中とミズちゃん、そういうことなの〜?」

「違う違う違う!」

 俺と水原の声がハモった。軍団の中に由紀ちゃんもいて、俺はますます焦った。

 …神様!由紀ちゃんにだけは誤解されませんように…!

「いや〜、仲良く否定されちゃってもねぇ…」

 3年の牧野先輩が楽しそうにからかう。ああ、もうヤメテ…。

「本当に違いますよ!俺は山之辺が帰ってくるの待ってるだけで、コイツはさっきたまたま通りかかって…」

 言い訳したら、由紀ちゃんが反応した。

「…総司…、どこか行ったんですか?」

「えっ!ああ、いや、ちょっと教室に忘れ物したみたいで…」

「…そうですか」

 とっさのことで、あまりうまい嘘ではなかったが、その場はそれで収まりそうだった。が、

「じゃあ…お兄ちゃんは?」

「さ、先に帰らせた」

 その言葉で、由紀ちゃんがかなり不審そうな顔をした。

「お兄ちゃんが…先に…?」

 うッ…かわいい由紀ちゃんに瞳を覗き込まれると嘘がつけない感じ…。

「それよりさ、由紀ちゃんいつ俺とお茶してくれるの?」

 ナンパで誤魔化してみた。

「えっ!」

 由紀ちゃんも、俺が二人きりじゃない時にこんなことを言うとは思っても見なかったのだろう、顔が今までになく赤い。

「ちょっと阪中、今ミズちゃんといい感じだったんではないの!?」

 牧野先輩が、竹刀袋に入ったままの竹刀で、俺の頭をカツンと叩いた。

 …イッテェ…。

「俺は誰ともいい感じなんかじゃありません!帰れ帰れ!」

 俺が頭を抱えながらそう言うと、牧野先輩は「かわいくない奴!」ともう一度竹刀で小突いてきた。




 女子部員が帰って、更に10分くらいして山之辺が戻ってきた。

「あ…先輩…」

 俺が座っているのを見てビックリしたようだった。

「早く荷物取ってこいよ」

 俺が部室の鍵を見せると、山之辺は顔を真っ赤にして謝った。

「すいません!」

「いいよいいよ」

 山之辺が慌てて荷物をまとめて出てきた。

「待たせてすみませんでした!」

 もう一度、俺に深々と頭を下げた。

「由浅が待ってるって言ったけど、帰したぜ」

 俺がそう言うと、山之辺の動きが止まった。

「あのさあ、由浅にも言ったんだけどさ、お前ら、もうちょっと離れたほうがいいと思うけどな…余計なお世話と思うだろうけど」

 俺はそう言いながら部室に鍵をかけた。

「教官室まで一緒に行くか?」

 チラッと山之辺を見ながら誘うと、奴は小さくハイ、と言ってついてきた。


 一緒に歩くと、余計にでかく感じる…。

 横目で山之辺を見ながら、よくも由浅は毎日コイツと一緒にいるもんだなと思った。

「まだ顧問に会ったことないよな」

「はい、お名前だけ…栗林先生でしたよね」

「そうそう、通称クリリンな。4月は忙しくてほとんど稽古に来ないんだ。6月に入ったら地区大会とかもあるから、ちょこちょこ顔出してくれるけどな」

 教官室のドアをノックする。

「失礼しま〜す」

 入っていくと、クリリン一人だけが、パソコンの前で格闘していた。

「おお、阪中、久しぶりだなあ!」

 クリリンは、ひょろっとした体型だ。身長は多分俺と同じくらいだが、おそらく体重はかなり少ないだろう。それが今は仕事中でメガネをかけており、更に軟弱な様子に見える。しかし、それでも剣道は6段の腕前なのだ。30歳前で6段というのはなかなか難しいことで、俺は密かに尊敬している。

「顧問なのに『久しぶり』って挨拶はないでしょ〜。たまには稽古つけてくださいよ」

 俺は勝手に室内に入っていき、道場と部室の鍵を、所定の位置に戻した。

「あはは、ゴールデンウイークにミニ合宿あるでしょ。それまで待ってくれよ」

 クリリンが俺の背中に向かって言っている。

「え〜、それまで来ないつもりですか?あ、そうそう、あのコ今年の新人ですよ」

 教官室の入り口付近で直立不動の山之辺を、俺はクリリンに紹介した。

「おッ!おっきなこだねぇ!剣道やってたの?」

「はい。山之辺総司と申します。よろしくお願いします」

 山之辺が礼儀正しく挨拶をすると、クリリンは不思議そうな顔をした。

「…?なんか…名前を聞いたことがあるような気がするよ」

「…?」



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