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ルール違反  作者: 石井至
3/13

第3話 好意

 校舎から剣道場までは少し歩く。

 稽古の前に竹刀のチェックをしようと少し急いで歩いていたら、由紀ちゃんを見つけた。

「あ、由紀ちゃん!」

 突然名前を呼ばれた由紀ちゃんは、ちょっとビックリしている。

「ごめんごめん、「前嶋」だと由浅とごっちゃになるから、みんな君のこと「由紀ちゃん」って呼んでるんだ。…構わないかな」

 そう聞くと、彼女はニッコリ笑った。

 …かわいいな〜。

 いいな〜。

 かわいい笑顔に、すっかり稽古のことや竹刀のことを忘れてしまいそう…。

「由紀ちゃんさ、今度俺とお茶でも…」

 ついつい誘おうなんて考えたんだが、…横槍が入った。

「コラ〜ッ!!!」

 佐々木先輩が走ってくる。

「離れろ離れろ!」

 そう叫びながら、俺と由紀ちゃんの間に割って入ってきた。

「こいつ、剣道は強いけど、私生活はめちゃくちゃだから近づかんほうがいいぞ」

 などと、無茶苦茶なことを言う。

「何を言うんですか、人聞きの悪い!」

「俺は聞いてるぞ、先週バレー部のコ泣かしたそうじゃないか」

「泣かしてません!断ったら泣いたんです!」

「ほれ見ろ泣かした」

 くっそ〜、なんでそのネタを…。

 佐々木先輩って、時々こっちがビックリするようなネタを掴んでいることがある。他人の話を聞くのは面白いが、自分のこととなると…油断できない。

 由紀ちゃんは笑ってる。さっきのお茶の誘いは、流されてしまったようだ。佐々木め!

 


「僕168cmありますよ!」

 部室のドアのを開こうとしたら、由浅の怒る声が聞こえてきた。

「うそ〜。そんなにないだろう?」

「あります、ホントですよ。なんなら測ってください」

 ムキになって主張する声。

「おーっす」

 そう言いながら入っていくと、みんなが「おーっす」だの「お疲れ様です」だの、口々に返事をした。俺は仕切りの奥に入っていって自分の竹刀を出し、ささくれ具合をチェックする。ひどいところはカッターで削った。


「お前さ、アレじゃないの?いつも山之辺と一緒にいるから、余計に小さく見えるんじゃないの?」

 道端の声。すると、

「…総司!もう一緒に歩くな!」

 由浅が山之辺にそう忠告している。

 山之辺の声は…聞こえない。反論はしないようだ。

 なんなんだろうなあ、このコンビ。

「お、阪中!注文してたツバが届いてるぞ」

 高橋の声がした。

「あ、サンキュー」

 俺は削った竹刀を軽く磨きながら返事をした。

 ツバっていうのは、刀の握り手と刃の間にある金具のことだが、普通剣道の竹刀に使うのはプラスティック製の簡易なものだ。今まで紫色のを使っていたが、こないだの試合で注意されたので、試合用に地味な茶色のを注文していた。

「ところで山之辺は身長何cmあるんだ?」

 高橋の声が聞こえてきた。

「…182です」

 山之辺の声。あんまりしゃべらないけど、こうして声だけ聞いてみるとイイ声だ。

「やっぱり〜。180は超えてると思ってたんだ〜。部室に入る時、アタマ打たないように気をつけろよ」

「…もう打ちました…」

 プッ。

 無口で無表情な山之辺が、黙ってアタマをぶつけているところを想像すると笑えるなあ。

 仕切りの奥から出て行くと、由浅が着替え始めていた。白い背中にドキッとするのは、顔が由紀ちゃんと似ているからだろう。

 …みんななんとも思わないのかな〜。

 辺りを見回したが、どうやら意識しているのは俺だけらしい。

 男女の双子って不思議…。そう思いながらぼんやり由浅の着替えを見ていたら、誰かの視線を感じた。

 山之辺だった。

 俺が気付いたのに気付いて、サッと視線を外した。



 由浅、由紀ちゃん、山之辺の3人の素振りは似ている。たぶん同じ道場で習ったのだろう。

 素振りは、意外と個性が出るものだ。

 でも、3人の素振りは、素直で、クセがなくて、きれいだ。

 身体が柔らかいことも大事だ。

 特に由浅の素振りが一番しなやかで伸びがある。

 そういえば、こないだの稽古のときも感じたっけ。

 …お互いの間合いが少し離れていても、由浅の技は踏み込み無しで俺に届いた。そう…特にあの、最初の一撃。由浅の身体の大きさで、まさかあの位置から技が出るとは思わなかった。

 背の小さいことはハンデだが、それを補う身体能力が由浅にはある。天性のものか、鍛えた成果か…。

 また、山之辺と目が合った。

 今度は、山之辺は視線をそらさず、こちらを真っ直ぐ見据えたままだった。



  

 

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