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ルール違反  作者: 石井至
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第1話 美人入部

 4月5日。今日は入学式だ。

 といっても俺の入学式ではない。

 高校2年生の俺にとって入学式といったら「新入部員の勧誘」だ。

 入学式が終わる午前10時半を狙って『剣道部』の看板を持って1年生の出待ちをする。

「阪中、かわいい子連れて来いよ!」

 現部長、佐々木先輩はそんなことを言っているが、剣道部に入ろうというかわいい子が果たしてどれくらいいるだろうかと思う。

 かわいい子を見かけたら、勧誘やめてナンパだ、ナンパ。


 ぞろぞろ出てくる新入生に適当に看板を持ち上げてみせる。

 実際のところ、高校生になってから剣道を始める奴は少ない。一学年に一人か二人。だいたいは小中学生からやっていて、そのまま続ける奴が多い。だから俺の役割は「ここに剣道部員がいますよ」って示すことだ。

 そんなこんなで大してやる気も無くボーっと突っ立っていたら、トントンと背中を叩かれた。

「あの〜、剣道部の部室って、どちらですか?」

 振り返ると、綺麗な女の子が立っていた。

「えッ!?剣道部?あ、もしかして入部希望かな?経験者?」

 突然の出来事に、俺はちょっとあせった。すると、彼女はそんな俺を見て笑った。

「経験者です。今日は稽古されますか?」

「今日は1時から稽古があるよ。見学する?」

「はい。よければ」

 うわ〜。ラッキー。めっちゃかわいい!

「部室は道場のそばなんだけど…。一緒に行こうか」

「ありがとうございます」

 ニコッとされて、ガーンと衝撃が走る。ひとめぼれって経験無かったけど、今経験したかも…。

 本当は、あと少しここで立っていなけりゃいけないが、この際どうでもいいや。彼女に付いて行きたい。

「どこの中学校から来たの?」

 一緒に並んで歩く。

「貝掛二中です」

「強いところじゃん」

「そうですね、結構上位常連校でした」

 じゃ、彼女も意外と強いのかも。

「それは稽古が楽しみだな〜」

 これは本音。

「あの〜、私、前嶋由紀って言います。お名前、伺ってもいいですか?」

「俺は阪中マドカ。マドカは円周率の円ね」

「阪中さん…」

 彼女は、ちょっと何か考えているような表情になった。

「…もしかして、去年の秋の県大会で…」

「ん?ああ、三位でした。ははは。詳しいね」

 去年の県大会…ちょっと嫌な思い出だ。

「新聞の地方欄に、お名前が載ってました。一年生で準決勝までって、すごいですよね。それで覚えてたんです」

「そっか。ありがとう」

 すごいかも知れないが、決勝まで進めなかった自分に腹が立ってしょうがない。

 …けど、まあいいや。前嶋さんが「すごい」って言ってくれたから良しとしよう。


「阪中、やったな!」

 佐々木先輩をはじめ、3年生も2年生も、彼女の登場に大喜びだった。

「ダメですよ、由紀ちゃんは俺がツバ付けときましたから」

 前嶋さんを女子部室に連れて行った後、男子部室は大いに盛り上がった。

「かわいいなあ〜。あれは久々のヒットだなあ〜」

「でも『前嶋由紀』って、どこかで聞いたような…」

 その時、男子部室のドアがガチャっと開いた。

「…失礼します。剣道部はこちらですか?」

 入ってきたのは…。

「えっ!?」

 みんな、固まった。

 入ってきたのは、前嶋由紀と同じ顔の…でも詰襟を着た…男?

 こちらが固まっているのを見て、彼はにっこり微笑んだ。

「ああ、もう由紀を見たんですね?僕、由紀の兄の由浅です。双子なんです。…入っていいですか?」

「おお、入れ入れ」

 我に返った誰かがそう言って『前嶋由浅』を招き入れると、その後ろから、もう一人、大きな奴がぬっと入ってきた。

「失礼します。山之辺総司と申します。入部希望です」

 前嶋由浅が身長170cmもなさそうなのに対し、山之辺は180cmぐらいありそうだ。入り口のところでちょっと頭をかがめて入ってきた。

 ボロボロの男子部室の入り口で、でかいのとチビとが並んでつっ立っている。

 …変なコンビ…。

「今日は稽古ありますか?是非見学させてください」

 元気いっぱいにそう言う由浅の様子は、まだ中坊のにおいがする。

「経験者なんだろ?見学といわず稽古に参加してってよ」

 佐々木先輩がそう促したが、

「いえ、今日は道着も防具も持ってきていないんです。見学だけさせていただければ」

 由浅はそう言って断った。後ろで山之辺が肯いている。

「いや、稽古は昼から…1時からだよ。貝掛二中だったら家も近いんじゃないの?防具取っておいでよ」

 佐々木先輩がそう付け加えると、由浅と山之辺は顔を見合わせ…そして頷き合った。

「はい!ありがとうございます!じゃあ、早速一旦帰ります!」

 元気なお返事。一礼して去っていく二人。

 そっと閉まったドアを見ながら、残された俺たちは考えていた。

 …あのドア、あんなに静かに閉まったっけ。

「あいつら、礼儀正しいな」

「…なんか、さわやかだったな」

「山之辺は、あんまりしゃべらんな」

「それより前嶋…そっくりだな」

「…そっくりだな」

「…そっくり…」

 由浅は由紀ちゃんにそっくりだった。

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