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女中Mのひとりごと。

どのMかは御想像にお任せします。

 長く仕事で家を離れていらした旦那様が、養い子を連れて帰ってきた。なかなか子宝に恵まれないご夫婦は以前から子供を引き取ってもいいかもしれないと冗談交じりにお話ししていたけれど、まさかこんなに大きな娘を連れ帰ってくるとは思わなかったわ。もうすっかり年頃の、結婚してたっていいような年の娘だもの。何も知らない人がみれば旦那様が若い愛人を連れ込んだと勘違いされかねないね。まあ、旦那様が奥様をどれほど大事にしているか私達には良く分かっているから疑ったりはしなかったけど。

 どうしてこんなに大きな子を引き取ったのかと最初はさすがに不思議には思ったよ。素直で真面目で働きもの。少し間の抜けたところがあるがそれも愛嬌があっていいという程度。つまり人柄は折り紙つきに良いってこと。更に容姿も華奢で可憐。最初は薄汚れた子供かと思ったのに一度風呂を浴びさせたら、あっという間にどこの貴族の御令嬢だって言っても恥ずかしくない綺麗な子だった。係累が無いとはいえ、どこでも喜んで受け入れてもらえるだろう。私達がそうだったみたいに。

 でも、他のどこかに預けなかったのはとても放っておけなかったからだと旦那様は仰っていた。その子には記憶が無い。それから常識もだいぶ欠けている。本人が破天荒な性格だというのじゃなくて、単純に知らない。だから余計に危なっかしい。

「すぐに悪い奴に騙されそうだから。」

 旦那様がその子を連れて帰ってきた翌日の夜にそう聞いて、その場にいた全員が納得したわ。本当に人がよくて、隙だらけの子なんだもの。みんなで守ってやろうと乾杯して誓いあった。

 旦那様は可愛い娘ができたら、すっかり親馬鹿になって言い寄ろうとする男に目を光らせっぱなし。執事のケイヴまで一緒になってその子に届く手紙の差出人を全部確認して、直接の知り合いじゃないと一度差出人に会いに行って用件を聞いてしまうという過保護ぶり。おかげで悪い虫はついてないけど、極上の虫、じゃなかった、極上の男まで払いのけようとするのはどうかね。少しは世間に慣れておかないと、あとで苦労するのはあの子なんだから。旦那様にそれとなく釘を刺したけど、聞いているんだかいないんだか、困ったもんだ。

「今は念願の娘ができて嬉しくて仕方ないのよ。少し大目に見てあげましょう。」

 奥様がそう言うなら、もう少しだけ様子を見ておいてあげましょう。確かにご結婚から15年、待ち望んだ娘ですもんね。そう言えば目が少し緑がかっていて旦那様の目の色と似ているかもしれない。それがなかったとしても素直に慕ってくれる子は可愛いでしょうよ。本当は「隊長さん」じゃなくて「お父さん」って呼んでほしいのに言い出せなくて、食事のときなんかに「隊長さん」って呼ばれる度に何か言いたそうな顔になってるの、本人以外はもう皆気が付いてますからね。


 でも、喜んでいるところ可哀相なようだけど、あの子が巣立っていってしまう日はそう遠くないかもしれないとも思うのよね。本当は旦那様もケイヴも気が付いているはず。一生懸命目を逸らそうとしているけど、分かりやすい子だもの。どうも心を寄せる相手がいるみたいだって傍にいたらすぐ分かるわ。本人はそれが恋だと気が付いていないみたいだし、今は皆で見守るとしましょう。


 ふふ。あの子は男を見る目があるわ。

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