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愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
村の教会の小さな家族
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子守唄

 元の大きな広間は礼拝堂と呼ばれているらしい。彼女は子供達と一緒に礼拝堂に戻って固い床に薄っぺらな布を引いて寝転がった。時間の感覚は無いが、外は暗い。小さな子供は寝かしてしまった方がいい。子供の横に寝転んで背中を軽く叩きながら子守唄を口ずさむ。メロディーと歌詞が途切れず思い出せることにほっとしながらも、この歌をなぜ知っているのかは分からないのだな、と心の中でため息をつく。思い出せないけれど、とても大切な、暖かい思いがあったと思う。自ら歌いながら心が和むのを感じる。なんとなく安心する。そう思いながら子守唄を途切れず歌い続けて小さな子供たちが皆寝てしまった頃、やっと口を閉じた。水をどこで汲めばいいかも分からないのに喉が乾いてしまった。


「なあ。」

 一緒に子供を寝かしつけていたウィルが起き上がって小さな声で呼びかけてきた。

「さっきの歌はなんだ?」

 そう問われて、自分も起き上がりながら考え込む。

 はて、歌は覚えているが歌の名前は分からない。

「子守唄よ。名前は忘れてしまったけど。」

「子守唄?なんだそれ?」

「知らない?」

 不思議そうな顔をしているウィルに問いかけると、首を横に振られた。

「子供を寝かしつけるときに歌う歌のことなんだけど。」

「寝かせるときに、歌を歌うなんて初めて聞いた。」

 そう言いながらウィルは大人しく寝ている小さな子供達を見まわした。

「随分効くんだな。」

 そう言いながらウィルは隣で寝ている子供の前髪を払ってやる。

 小さい子供が静かになって改めてウィルを見ると、先ほどの喧嘩で殴られたのか服の襟から除く鎖骨のあたりが赤く腫れていた。唇の端も痣になっている。殴り合いの喧嘩を始めた時は、喧嘩っ早い少年かと思ったが、本当は優しい子なのだろう。子供たちの面倒をよく見ていたし、慣れてもいたようだから昔から村の子供たちのよき兄代わりだったに違いない。

「もう一回歌ってあげるから、ウィルも寝たら?」

 そう声をかけると、彼はぎょっとしたように彼女をみてから勢いよく横に首を振った。

「寝かしつけてもらわなくても寝られるから!お前こそ早く寝ろ。」

 そういってごろりと床に寝ころぶと、彼女に背を向けてしまった。彼女はその耳が赤くなっているのをみて、思わず微笑みながら自分も子供たちの脇に寝転んだ。

「おやすみなさい。」

「・・・おやすみ」

 すこし間を置いて返ってきた言葉に彼女は目を閉じたまま笑みを深めて、そして程なく眠りにつくことができた。


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