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愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
村の教会の小さな家族
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私はだあれ?

 子供がすっかり泣きやむ頃には、大人たちの揉め事も落ち着いたらしく教会の中はずいぶんと静かになっていた。


 車座になって石の床に座り込み、子供たちが代わる代わる説明してくれた話をまとめると、ここは国の外れの小さな村の、そのまた外れにある教会であるらしい。昨夜、村がモンスターの群れに襲われ、村人は命からがら教会へと逃げてきたという。モンスターとは一体何のことなのか彼女には全く分からなかったが、襲われたというからには恐ろしい体験だったのだろう。子供たちに詳しく思い起こさせることも憚られて、質問は控えた。


「騎士様が来てくれなかったら、皆殺しだったかもしれない。」

 少年がぼそりと呟いた。皆殺しとは穏やかではない。モンスターとは人の命を奪うものであるらしい。しかし、そこにはそれ以上踏み込むべきではないだろう。もう一つ気になった言葉があった。

「騎士様?」

 そう聞き返すと、10歳になるやならずの少年は顔をあげて大きく頷いた。

「そうだよ。王都から騎士様が皆で来てくれたんだ。それで早く逃げろって言われて村の半分も逃げたところでモンスターが出てきた。早く逃げ始めてなかったら、皆寝ているところを襲われて、きっともっと大変なことになってたよ。」

 モンスターの襲撃について先触れがあったということらしい。子供たちが言うには、今は広間の中には村人しか見当たらないが外には騎士様達がいるのだという。

「今だって教会を騎士様が守ってくれてるんだ。だから、ここに居れば大丈夫。」

 少年は両膝を胸に抱きかかえるように身を丸くしながらそう言った。ウィルと名乗った先ほどのリーダー格の少年がその頭を軽く撫でてやると、少年は顔を膝に埋めて更に丸くなった。体を縮めるようすは恐ろしかった気持ちを表すようで、ウィルが肩を抱いてやっていなければ、彼女が抱きしめていたと思った。


 そのウィルは先ほどの喧嘩の内容などから察するに、村長の息子であるらしいが、彼の親も昨夜以来見あたらなくなってしまっているそうだ。子供たちの中では最年長らしいが、それでもまだ14か15歳だろう少年にとって、それはとても大きな不安だろう。気丈に年下の子供たちを励ましている様子にかえって胸が痛んだ。

 自分に記憶が無いのは、そういう混乱の中で頭を打ったせいかもしれない。そう思って念のため頭を触ってみるが痛むところは無かった。あるいは、と思いを巡らす。とても怖い思いをして忘れてしまっているのか。それだったら、思い出すのも恐ろしい気もする。ただ怖い思いをしただけならば、自分が何かを忘れたとしても、周りの子供達が自分を覚えていない理由がない。子供たちによれば、この教会に避難しているのは一つの村の住人だけで、村の人は皆顔見知りだと言う。つまり、自分はこの村の住民ではなかった、ということになる。村どころではない。王都、騎士と聞いて彼女は王様がいて、国を治め、騎士が国を守るのだということはおぼろげに理解できたが、国の名前も王の名前も何も思い起こすことはできなかった。自分はこの国のものですらないのかもしれない。では、どこの。と自ら問うてもやはり答えは出なかった。子供たちも彼女がどこからきたのか全く見当もつかないという。


 一体、自分はどこの何者なのだろうか。


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