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愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
村の教会の小さな家族
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保護者

 後のことを一旦騎士達に任せて二人が詰所を辞した後で、セオドアはアルフレドに歩み寄った。


「何を企んでいるんです?」

 ウキウキとした気持ちを隠し切れていないアルフレドの笑顔は、明らかに何かを企んでいる証しだ。

「そう悪い話ではないさ。彼女が教会に行かない道を選んだ場合どうしようかと考えてはいたんだ。18歳ということであれば、彼女が迷うまでもなく教会に居られない可能性が高い。だったら考えておいた方の策を取ろうと思ってね。先に手を回しておいて良かったなあ。」

「何の話です?」

 座ったままのアルフレドに直立して向きあうセオドアはぱっと見た感じは真面目に上司の話を聞いているように見えるが、アルフレドを見下ろす視線には不審が滲んでいる。

「今日の話を聞いて確信したよ。彼女はお人好し過ぎるんだろう。あの村人の縋る様子に父親を思い出すなんて。親のことをこれ以上思い出したとして、家に帰すことが一番良い選択かどうかも怪しいものだ。信頼できる保護者のいないところに置いていては、どこかに売り飛ばされたり、誰かに良い様に使われたり、とにかく彼女にとって良くないことが起きかねない。というか、高確率で起きる。私はね、この避難所の平和を守ることに貢献してくれた彼女を特に高く買っているし、感謝している。そんな彼女を危険に晒さないためには、保護者の目の届くところに置いておくくらいの手はかけたいと思う。」

 そこまではセオドアも完全に同意だ。アルフレドは続ける。

「しかし、可愛らしく、心優しい彼女の魅力に目のくらまない保護者などそう簡単にはみつからない。そ、こ、で、だ。私は妙案を思いついた。ならば、私が保護者になれば良いとね。」

 バチンと音がしそうなほど思いっきり片目をつぶって見せる叔父にセオドアは呆れたため息で返した。

「貴方が、引き取ると?」

「まあ、そういうことになるかな?妻にも相談してあるんだ。うちの遠縁の娘と言うことにすれば、下手な男は手を出せないだろう?都合のよいことに私と彼女は髪も瞳も色目が似ている。いちいち家系図を紐解かれない限り分かりはしないさ。」

 王都にいる妻にも相談済みとは、書簡の往復にかかる日数を考えると随分早手回しにことを進めていたようだ。感心するやら呆れるやら、セオドアは叔父を見下ろして軽く眉を寄せた。

「そんな顔するなよ。お前にとっても悪い話じゃないだろう。お前も特に気にかけてやっている娘だ。私の養女扱いにすればお前とはいとこ同士だ。気軽に会いに来て様子も見られる。家の手伝いでもしながらゆっくり必要な作法なり、なんなり勉強してもらえばいいさ。」

 アルフレドの言う通りになれば、確かにセオドアは杏奈と義理の従兄弟の関係になる。アルフレドとセオドアは王都でも比較的近くに居を構えている。王都に居る間は頻繁に会いに行くこともできるだろう。釈然としない思いもあるものの、アルフレドの言い分に異論は無い。セオドアは「叔母さんが良いと言っているのなら、そうですね。」と引き下がった。


「ところで、こちらも聞きたいことがあるな。」

 今度はアルフレドから問いかけた。

「何ですか?」

「お前、あの子が18歳だと言っても驚いていなかっただろう。あれは何でだ?」

 セオドアは真顔のまま無言でじっと叔父を見返した。アルフレドも負けずに真剣そのものの表情で見つめ返す。しばし見つめあった後で、アルフレドが恐る恐る続ける。

「まさかとは思うが、お前・・・同意の上」

「何です、わざとらしく声なんか震わせて。話してみれば分かりますよ、少なくとも14歳なんかじゃないことくらい。18歳くらいは想像の範囲内です。むしろ思ったより若いくらいです。」

 皆まで言わせず話を打ち切られた上に冷たい目で見下ろされて、アルフレドは不満げに髭を揺らした。

「ふん。つまらん。」

 ついでに本音をこぼすと、懲りない男はにっこりと笑顔を浮かべて立ち上がった。立てば目線は殆ど変わらない。

「まあ、しかし18歳か19歳ということなら年の差も思ったより小さいし、お前にとっては良いことかもしれないな。」

 他の騎士には聞こえない程度に声を落としてそういうと、肩を叩いて去っていく。儀礼的に礼をとって上司を見送りながら、セオドアは心の中だけで「余計なお世話です。」と言い返した。


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