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愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
村の教会の小さな家族
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年齢制限

 アルフレドの元を何かと相談に訪れているウィルはすっかり顔なじみだ。突然の訪問だったが、少し待っただけで話をさせてもらえた。


「どうしたんだい?」

「あの、私達を引き取ってくれると言っていた教会は身寄りのない子供を引き取っているんですよね。年齢の上限ってあるんでしょうか?」

 杏奈に問いかけられて、アルフレドは「はて、どうだったろうか。」と言って部屋にいた騎士の一人に目をやった。孤児や村を離れる者の移住の手配の実務を担っている者だ。彼は上司の意思をよく汲んで答えた。

「普通は16歳までですね。個別のケースは相談次第だと思いますが。定員が在る程度決まっているので長く居る者がいると、他の小さい子が入れなくなりますから、長居を望む者は少ないですね。」

 それを聞いて、杏奈とウィルは顔を見合わせる。

「ウィルは15歳、アーニャは14歳だったかな。君たちは少なくともこの冬の間は受け入れてもらえるよ。ウィルの春からのことは行った先ですぐ相談しないといけないけどな。」

 騎士は続けてそう言ったが、二人の表情が晴れないので騎士達は訝しむ。


「あの、私、自分の名前と年を思い出せたんですけど、18歳だったんです。それで、王都の教会に行くには年が行き過ぎているんじゃないかと思って、相談に。」

 杏奈がそう言うと、騎士達はウィルのときと同様にあんぐり口をあけた。

「18歳、かね。」

 いつも飄々としているアルフレドも、驚きを隠せずにまじまじと杏奈を見つめた。たぶん14歳だと聞かされた時に、もう少し上なのではないかとは感じたが18歳は予想を超えている。結婚した時の自分の妻も18歳だったが、もっと大人びていたと思う。特に胸のあたりが、もっと。


「はい。もし誕生日がもう来ていたら19歳かもしれませんけど。」

 彼女の回答に、アルフレドは「そうか。」と言って黙り込んだ。騎士達が戸惑いを隠せないでいると、円卓の一隅にかけていたセオドアが口を開いた。

「名前は?思い出したんだろう?」

 杏奈はこくりと頷いた。

「杏奈です。」

「そうか。アンナか。良い名だな。」

「ありがとうございます。」

 唯一杏奈の年齢に驚いていなさそうな甥を意外な思いで見ながら、アルフレドは冷静さを取り戻した。

「アンナ、良かったね。少しでも思い出せたのならこれからも何か思い出すかもしれないね。何かきっかけがあったのかね?」

「今日、キージさんに声をかけられて。その様子をみていたら父のことを思い出したんです。父と、母のこと。顔と声だけなんですけど。」

 キージの騒動は騎士達の耳にも入っていた。キージをきっかけに両親を思い出すとはどういうことかしっくりこない。

「と、いうと?」

 続きを促して、杏奈が語るのを聞いている内に騎士達の表情は段々と渋いものになっていった。お前だけだ、助けてくれといって娘に家の大事を救ってもらおうとした父親が、キージに似ていると言う。想像するに実家でも彼女はどこかに売られそうになっていたようだし、悪いケースでは記憶にないだけで既に売られたという可能性もある。記憶がないのは、モンスターから一人逃げ惑った恐怖からかと思ったが、彼女を追ったのはモンスターだったのか、家族だったのか、売られた先の人間だったのか分からなくなった。こうなると記憶が戻ることをただ喜んでいいのかさえ微妙だ。


「父と母が言い合うところしか思い出せなくて、名前も自分の名前しか分からないんですけど。」

「そうか。」

 話を聞き終えてアルフレドは軽く眉間を押さえた。

「話してくれてありがとう。教会の方はこちらで確認しておこう。18というのは、正直ちょっと難しいかもしれないね。悲しいことだが、今年は本当に引き取り先を探している子供が多くてね。」

 そこで言葉を切ったアルフレドは緑色の瞳をきらめかせて杏奈に笑顔を向けた。

「もしも、子供達と一緒にいけないとした場合なんだが、君としては村を離れたいことには変わりないだろう?その場合の行き先に希望はあるかね?」

「仕事をさせてもらえたら、有難いと思います。働きながら、分からないことを勉強できるともっといいんですけど。」

「ふんふん。分かった。私に任せておきなさい。」

 アルフレドは満足げに頷いた。


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