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愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
村の教会の小さな家族
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アンナ

 その日の夕食後、礼拝堂へ戻る道すがらアーニャが小声でウィルに声をかけた。

「ウィル。」

 ウィルが振り返ると、小さい声のまま彼女は続ける。

「私、思い出したの。名前と年と、それから、お父さんとお母さんの顔だけなんだけど。」

「え?」

 予想外の言葉に、ウィルは大きな瞳がこぼれんばかりに目を見開いて立ち止った。

「さっき、キージさんの顔を見たら急にね。」

 おかしなタイミングでの思い出し方を不審に思うよりも、彼にはもっと気になることがあった。

「お前、名前はなんて言うんだ?」

「杏奈よ。アンナ。」

「アンナ、そうか。アンナか。」

 ウィルはまじまじと彼女を見つめた。そしてふっと笑いをもらした。

「なんだ、アーニャって名前かなり近かったんだな。ネルとミーナの奴、すげえな。」

「ほんとにそうだね。あだ名ってことにしたら態々呼び方を変えてもらう必要ないね。」

 二人は小さく笑いあった。

「そうだけど、自分の名前せっかく思い出せたんだから使えよ。良かったな、アンナ。」

 ウィルはアーニャ、改め杏奈の頭をがしがしと乱暴に揺すった。

「うん、ありがとう。」


 そのまま笑顔でウィルは問いかける。

「で、年は?」

「うん、18歳。あ、でもあれから半年以上経ってるから、もしかしたら19歳かな?誕生日がいつだったかまでは思い出せなくて。」

 今度はウィルの顎ががくんと落ちた。口を開けたまま無言のウィルに気がついて、杏奈はとりあえず彼の顎を押し上げて口を閉じさせた。

「そんなに驚かなくたって、いいじゃない。」

 腰に手を当てて胸を反らして杏奈が文句をいうと、ウィルは「ええー。」とやっと声を出した。

「18歳って、見えねえー!その記憶、本物なんだよな?」

「本当よ。そのくらい分かるもの。童顔で悪かったわね。」

 ウィルは、ふっくらとした杏奈の頬やか細い手足をみて今一度「ありえねえ」と呟いた。本人の言う通り、18歳だとしたら相当な童顔だ。体つきも細い。何より自分より年上には見えない。

「まじかよ。」

 意味のある言葉が出ないまま、ウィルはぶつぶつ言いながら礼拝堂へ向かい再び歩き出した。その少し猫背になってしまった後ろ姿を見送っていた杏奈は小走りに駆け寄ると、ばーんと背中をはたいた。

「もう!落ち込まれるとこっちまで落ち込むじゃない。やめてよ。」

 ウィルは、半ば涙目になって振り返ると「うん」とぎこちなく笑顔を浮かべた。

「18歳って、そんなに年増なの?格好とか、言葉遣いとか、なんかおかしい?」

 杏奈が不安げに自分のワンピースの裾をひっぱると、ウィルは「いや、そんなことないけど。」と歯切れが悪い。

「18歳っていったら結婚したりする年だろう?お前、全然そういう風に見えないからさ。」

「結婚・・・・。」

「うん・・・。」


 二人は、しばし、それぞれにもの思いに沈んだ。ゆっくりと礼拝堂へ戻りながら杏奈はぽつりと問いかけた。

「ねえ、ウィル。もしかして18歳って大人?」

「は?」

 ウィルは彼女の意図を掴みかねて目を瞬かせた。

「もう、大人だったら孤児院には入れないのかしら?」

 続けられた質問でようやく彼女の考えていることが分かり、果たして18歳は大人だろうかと考える。孤児院に入るのに年齢の制限があるかどうかは分からないが、一般的にいって18歳は孤児院に居る年齢ではない。

「隊長さんに相談してみるか。」

「そうだね。」

 二人はそのまま礼拝堂の前を素通りして、騎士の詰所に向かった。


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