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愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
村の教会の小さな家族
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君の行きたい道を行け

 翌朝、アーニャの目は盛大に腫れていた。子供達にとても心配されたが、アーニャにどうしたのかと纏わりつく子供たちを蹴散らす勢いで説明を求めてきたのはウィルだった。強引に手をとると食事時を過ぎて人気もまばらな食堂に連れて行かれた。


 昨夜、礼拝堂を飛び出してから何があったのか話せと詰め寄られる。アーニャはその剣幕に驚いて普段の半分ほどしか開かない目を瞬かせた。

「昨日は、まさか自分が村にって思ってなかったから、ちょっとびっくりしちゃって。話し途中で出て行っちゃってごめんね。外で頭冷やしたくなっちゃって。」

「それで?」

 ウィルは胡乱気な視線でアーニャの腫れた目を責める。

「んー、もう大丈夫だよ。でね、ウィルには相談に乗ってほしくて。」

「大丈夫なもんか。」

 話の途中でウィルはむっとしたように口を挟んだ。

「お前、絶対泣いただろ。」

「そ、そりゃ、泣いてないとは言わないけど。でも、それはもういいんだってば。」

「お前、自分がどうやって礼拝堂に戻ってきたか覚えてるのか?」

 アーニャは苦しいところを突かれて目を泳がす。正直なところ全く覚えがない。セオドアと話して、そのまま寝入ってしまったはずだ。きっと彼が運んでくれたのだろう。

「何があったんだよ。村に引き取られるかもしれないってだけなら、泣くような話じゃないだろ?」

 まだ、片付けをしている女たちが少し残っているから小声で、でも真剣に問いかけてくるウィルの様子にアーニャは申し訳ない気持ちになる。心配をかけてしまっている。けれど、さすがにセオドアの胸を借りて泣き喚いたと説明するのは非常に勇気がいる。

「心配してくれてありがとう。本当にちょっと混乱しちゃっただけだったの。誰かに意地悪されたとかじゃないから、心配しないで。ね?もうすぐここを出て行くって、分かっていたはずなのに気持ちの用意ができていなかったみたい。だから、私、もっとしっかりしなくちゃいけないと思うの。それでね、そう考えたときに、キージさんの家にお世話になるのっていいことなのかな?昨日、逃げ出しちゃったのに、申し訳ないんだけど、ウィルの意見を聞かせてくれる?」

 アーニャが無理やりに話を変えているのは明らかだったが、あまりに勢い込んで話してくるのでウィルは口を挟み損ねてしまった。そして、話された内容も(ないがしろ)にしていいものではない。

「先に言っておくと、俺はまだ納得してないからな、昨日のことは。」

 ウィルはじとりとアーニャを睨む。彼女が怯まないと、不満そうに舌打ちしたが、軽く息をついて気持ちを切り替えたのか、少し表情を和らげた。

「キージのことは、俺は反対だ。これから村をもう一度元に戻すまで、本当に大変になる。畑のことも、ヤクのことも、薬草も、何も知らないアーニャがキージの家に一人で引き取られても苦労するのなんか分かりきってる。勉強する暇なんかなくなる。アーニャは村の人間じゃない。そんな苦労する必要はない。自分の行きたいところへ行ったらいい。」

 「行きたいところ、ね。」

アーニャは困ったような曖昧な表情になる。どんな選択肢があるかさえ彼女には分からない。ウィルは慌てて付け足した。

「まずは、皆と王都の近くの教会に行って、そこで色々教えてもらうっていうのもあるし、隊長さんに相談すれば違う道もあるかもしれないだろ?たまたま、運の悪い時期に通りかかったってだけで、この村にしばられることは無いんだよ。」

「ありがとう。」

アーニャの気持ちを尊重しようとしてくれる、ウィルの心遣いが嬉しかった。やはり、心のつかえは涙と一緒に出て行ってしまったようだ。昨日のようなウィルへの嫉妬や葛藤もなく、今日は素直に彼に感謝ができる。アーニャは自然と笑顔になった。腫れた瞼のせいで、笑うと目が見えない程細くなってしまうのに、ウィルから見てもアーニャの笑顔はいつもより明るく感じられた。


「村に行く話、断っておこうか。」

ウィルがそう申し出てくれたが、アーニャは自分で話したかった。そう言うと、ウィルは少し迷ったようだが騎士と自分の同席の元ならば、と条件付きで認めてくれた。

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