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愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
村の教会の小さな家族
30/160

強くなる

 温かさに包まれていると心が解けてくる。アーニャは考えるといいつつも、実際にはただぼんやりと頬をセオドアの胸に預けていた。規則正しい心音を聞いていると、のぼせた様になっていた頭が段々と落ち着いてくる。


 庭の隅に吹きだまっている落ち葉を見るともなく眺めながら、ぽつりぽつりと思いついたことを口にする。

「ウィルばっかりに頼るんじゃなくて、ちゃんと、皆の役に立ちたかった。」

 セオドアはただ「うん」と低く相槌を打って聞いてくれる。

「私、彼と対等か、もっとできることもあるんじゃないかと思ってた。敵わないこともあっても、私の方ができることだって、あるって。でも、私にはできることなんてないんだわ。少なくとも、生きていくために必要なこと、何にも分かってないのに。それ、分かってるつもりで、分かって無かった。」

「それなのに、村に来てくれって。どうして私なの?」


 順序も話の繋がりも考えず、アーニャは頭に浮かんでくる言葉を吐きだす。口に出すまでは、間違いなく自分が感じていたことなのに、耳に入る言葉を聞けば、我儘で、身勝手で、甘ったれな、泣きごとばかりだ。アーニャは自分で嫌になり、ついには口を閉ざした。じっと黙って考え込む。今度はきちんと頭が働いてくれた。

「こんな私、嫌だわ。何もできないままで、それを拗ねているだけなんて。」

 やっと同意を求めるようにセオドアを見上げると、穏やかな茶色い瞳と目があった。

「強くなりたいか。」

「なりたい。」

 動転して敬語をすっかり忘れていたアーニャは、最後に申し訳なさそうに「です」と付け加えた。それを聞いたセオドアは小さく吹きだす。

「いい。そのまま話せ。」

 アーニャは少し逡巡したが、結局頷いた。体同士の距離が近いせいか、セオドア自身をこれまでになく身近に感じていた。

「強くならなくちゃ。ずっと、皆に優しくしてもらって甘えてた。本気で一人で生きていける準備をしてなかった。何も覚えてない癖に。」

「記憶が無いのはお前のせいじゃない。そのことで自分を責めるな。」

 口調はいつも通りの静かなものだったが、セオドアの視線は真剣な強い思いを宿していた。

「強くなりたいのなら、できることだけ数えろ。そして、それを増やすことを考えろ。」

 アーニャはそっと目を閉じて、かけられた言葉を噛みしめた。やがてゆっくりと瞳を開いてはっきり頷いた。それを見てセオドアは満足そうに柔らかい笑顔を浮かべる。

「よし。それから、たまには泣きごとを言えばいいんだ。一人で悩まないで、相談しろ。お前もそうして欲しかったんだろう?皆がそう思ってないと思うか?」

 真顔で言い聞かされて、今度は首を横に振る。

「思わない。」

 自分で答えを出しながらアーニャはもう一度涙が湧いてくるのを止められなかった。けれど、今度は先ほどの悲しい涙ではない。どちらかといえば嬉しい涙だ。大事に思ってくれている人達がいることへの喜びと感謝だ。

「じゃあ、落ち着いたら戻って安心させてやれ。」


 言外に、もう少しこうしていてくれるという彼の優しさを感じて、アーニャは有難くそれに甘えた。泣きながら帰るわけにはいかない。「もう少ししたら」と言い訳のように呟くと、セオドアに寄りかかって目を閉じた。腫れているのだろう瞼は熱く、重かったが、気持ちは随分と穏やかになっている。やり場のない悲しみも情けなさも、涙と一緒に流れてくれたようだ。

 確かに自分は無力だけれど、それを嘆くだけではいけない。見守っていてくれる人がいるから、その思いに応えられるように強くなりたい。自分にできることから一つ一つやっていくしかないだろう。ウィルが皆を思ってしてくれたことに、きちんと感謝をしたい。自分を可哀相がって、彼らに心配させるのではなく。


(しっかりしなくちゃ。)


 その思いとは裏腹に、セオドアの冬用の暖かいマントに包まれてアーニャが寝入ってしまうまでさほど時間はかからなかった。


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