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愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
村の教会の小さな家族
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差し伸べられる手

 夜、子供たちが寝静まるとウィルとアーニャはセオドアに言われた通りに詰所に向かった。扉の前にいた騎士は二人が来ることを知っていたようで何も言わなくても扉を開けて通してくれた。詰所の中心には大きな机と数客の椅子があり、セオドアと隊長のアルフレド、それから数名の騎士が思い思いの場所に腰掛けていた。


「遅くに悪いね。」

 アルフレドが立ち上がって空いている椅子を示して二人を腰かけさせる。

「もう、分かっているかもしれないけれど。」

 そう前置きしてアルフレドは二人の顔を交互に見た。

「村に皆を帰すときには、ここには誰も残せない。君たちも、それから一緒に居る子供らも。」

「分かっています。少しだけ、時間をください。村の皆にひと冬だけでも面倒を見てもらえないかお願いします。」

 ウィルがそう言うと、アルフレドは困ったように眉根を寄せて隣に座っていた甥に視線をやった。

「お願いします。春になったら、俺が働いて少しでも引き取ってくれた家にはお金も入れるようにします。」

 その視線をどう解釈したのか、ウィルは頭を下げてもう一度頼み込む。アーニャは必死に頭を下げているウィルをみて慌てて一緒に頭を下げた。下げたおかげで見えなくなった唇を強く噛んだ。来春から働くということは、教師の夢を諦めることになるのだということは彼女にも分かった。彼女に読み書きを教えながら屈託なく笑った彼の笑顔を思い出す。

「いやいや、顔をあげて。もちろん明日出て行けなんて言わないさ。大丈夫。」

 二人がゆっくりと顔を上げるとアルフレドは緑色の瞳をしっかりとウィルの目に合わせた。

「でもね、本当に10人もの引き取り手が見つかると思っているかい?」

 その問いかけに、ウィルは悔しそうに拳を握りしめた。ウィルだって本当は無理だと分かっている。村に降りる許可がなくても、村で作業をしてきた少し年上の友人達に聞けば事情は分かる。村の収入の半分以上を支えてきた家畜の被害は壊滅的だ。どこの家だって余裕は無い。アーニャは見兼ねてそっとウィルの握りこまれた手の上に自分の手を重ねた。


 アルフレドは表情を和らげて続けた。

「そう思い詰めなさんな。君達が責任を感じなければいけないことではないし、私達は君たちに全て押し付けるつもりもない。残念ながら、村に残ることは難しいが、せめて皆で一緒に暮らせるように手配するつもりだよ。」

 その言葉に俯いていたアーニャとウィルはぱっと顔を上げた。

「大人なんて、騎士なんて、頼りにならないと思っていたかい?」

 アルフレドはいたずらっぽく微笑んだ。

「もっと頼りにしてくれ。それが我々の仕事だ。」

 横からセオドアが真摯な様子でそう口添えすると、周りに居た騎士も一様に頷いた。


「本当の本題はここからだ。」

 アルフレドがそう言うと、茫然としていたウィルの表情が再び引き締まった。

「子供たちは、みな同じ孤児院でひきとってもらう約束になっている。もちろん、村に残る道が見つかる子がいれば、それはそれで良い。ただ、君とアーニャは年齢的に言って自分で行き先を選んでもいいだろう。一緒にいくか、それとも何かやってみたいことがあるか、考えておいてくれないか。」

 思いがけない申し出にウィルとアーニャは顔を見合わせた。

「ここを出る少し前までに分かれば構わないから。必要な人に相談して決めなさい。もちろん、私に相談してくれてもいいんだよ。」

 アルフレドはアーニャに向かって片目をつぶって見せた。周りにいた騎士達が隊長の抜け駆けに負けまいと「俺も」「俺も」と声をかける。困惑したアーニャは「ありがとうございます。考えます。」と返事をしたものの、心底困った顔でウィルを見ている。その横でウィルは彼女の視線に気づかない様子でじっと机の表面を見つめていた。


 その後すぐに二人は礼拝堂に戻ったが、自分の伝えたかったことが二人に伝わったのかとセオドアはまだ少し不安に思っていた。口べたの甥に二人への説明を頼まれたアルフレドもまた、去り際の二人の様子にもうしばらく気にかけておいた方が良さそうだと結論付けた。

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