表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
村の教会の小さな家族
2/160

目覚め

 彼女は多くの人がざわめく気配で目を覚ました。頭の後ろが酷く重く感じる。体を横に向けて目を開けると灰色の石が敷き詰められた床が目に入った。ざわめきからは意味を成した言葉は聞き取れない。酷く埃っぽい臭いが鼻をついて思わず顔をしかめながら、ゆっくりと上半身を起こした。


(ここは、どこだろうか。)


 首を軽く振って辺りを見回すが、全く見覚えのない場所だった。天井の高い石造りの建物の広い空間に大量に長い椅子が置かれており、人があちこちで動き回っているのが見えた。


(教会?)


 奥の方に大きな石像のようなものが掲げてあるのをみて、ぼんやりとそう思う。しばらく床に座り込んでいたが、新しく思い出されることも何もなかった。とにかく自分が今どこにいるのかを確認しようと辺りを見回した。自分がいた隣に何人も人が寝転んでいる。明らかに顔色の悪い者もいて、病人を集めているのではないかと思えた。奥に向かって視線を動かすと大きな椅子を使っていくつかのエリアに空間が仕切られており、かなりの人数の人がいることが分かった。その更に奥に小さな祭壇が見えた。人は沢山いるのに見たことがある顔はなかった。誰も自分に気がついた様子もない。


 いったいどうすればいいのだろうと、辺りをもう一度慎重に眺めていると祭壇近くで男の大きな声が上がった。すぐに周りにいた者まで何か大きな声で言いあい始めた。聞き取ることはできないが、怒鳴り合いであることは分かる。高い天井に音が反響してまるで周り中で男たちが怒鳴っているように聞こえる。見守るものはみな巻き込まれたくないというように俯き、縮こまる。彼女もただ座りこんだまま、何もできずにそちらを見ていると、黒い髪の少年が男達の喧嘩を止めに入るのが見えた。怒鳴り声に紛れて彼の言葉は聞こえないが、身振り手振りは明らかに大人達を諌めようとしている。

 だが、激昂している中年の男たちに比べて少年はいかにも細く、顔つきもまだ幼い。男達は素直に引きさがったりはしなかった。むしろ少年を小突いて馬鹿にしたかのように嘲笑った。

「なんだ、腰ぬけ村長の倅が偉そうに。だったらお前が何とかしろよ。親子揃って口ばっかりか。」

 男たちがせせら笑うと、少年は眦を切って男を睨みつけた。

「なんだと?親父は逃げたんじゃない、先頭切って逃げたのはお前の方だろ。」

 そこから再び喧騒が大きくなった。少年は男に殴りかかり、男が殴り返し、とうとう殴り合いの大喧嘩だ。



 どうやら、ずいぶん大変なところに居るようだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=660018302&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ