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愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
村の教会の小さな家族
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騎士達の心の灯り

 同じ寝ずの番につくのなら、礼拝堂の前が良い。

 扉の向こう、就寝する村人たちの輪の中から柔らかい女性の歌声が聞こえるのだ。扉越しにかすかに聞こえてくる歌声に心が癒されると、騎士達の間ですぐに評判になった。


 ある晩、礼拝堂前の見張りについていたセオドアは、歌声が終ってしまうのを非常に残念な思いで聞き届けた。噂通り、優しく心が温まるような歌声だった。ずっと聞いていたくなる。しかし、歌声はいつも半時もせずに終わってしまう。礼拝堂はすっかり静かになってしまった。

 セオドアは歌声の主のことを考える。子供たちにアーニャと呼ばれ、慕われている娘だ。アーニャはもう一人、同年輩の少年と一緒に10人程の子供たちの親代わりとして何くれとなく世話を焼いていた。モンスターの襲撃にあった村々の生き残りを集めて避難させると、どうしても親のいない子供たちの集団ができる。周りの大人たちも慣れない環境で余裕が無く、どうしても放っておかれてしまうそうした子供たちは、長くその時の傷から立ち直れないことが多い。暗い表情のままじっと蹲る子供達は残念ながら、どんな避難所でも見かけるものだ。しかし、この教会では当初は戦闘を目の当たりにして怯えていた子供たちの表情に徐々に明るさが戻ってきた。親の在不在に関わらず、今では子供たちの笑顔を見ることができている。


 希有なことだとセオドアは思う。

 そして、希有と言えばもう一つある。


 王都から遣わされた騎士団は、ここのところ急増したモンスターの討伐を目的としている。この教会で村人を守っているものは、いわば居残りであり、今も本隊はモンスターの根城を掃討すべく進軍しているはずだ。居残り組は、モンスターが活動しない日中に森を抜けて村へ戻り、そのままにしておけない村人や家畜の遺体を埋葬して日が暮れる前には教会へ戻る生活を続けていた。こうした作業が終るまでは瓦礫の撤去にも村人の手を借りることはできず、ただただ守り切れなかった命を自分たちで見送ることになる。こうした状況にある程度慣れている騎士であれ、どうしても士気が落ちることは避け難い。経験の浅い若者なら尚のことだ。しかし、ここの教会に詰めている部隊では、他の現場に比べて遥かに早く村を再建するのだと前向きな気持ちに切り替えることができたと思う。

 外から戻ってきた陰鬱な気持ちのまま、騎士達は詰所となっている部屋に赴く。俯きそうになるその道の途中で中庭の脇を通る。天気の良い日はいつもそこでアーニャと少年が子供たちを遊ばせており、笑い声をあげて走り回る子供姿や、その脇で木々の枝に縄を張って洗濯物を干している彼女の様子を目にすることになる。その穏やかさに、守れたものもあったのだと、そしてこれからも守っていくのだと、いつでも気を引き締めさせられる。セオドアは多くの騎士が何かにつけて中庭を眺めているのを知っている。口に出すことは無いが、あの日の差し込む中庭の景色は騎士達の心の灯になっている。


 くすんだような金色の長い髪、灰色から緑へ変化する不思議な色の瞳、そして他の村娘とは違う白い肌。記憶の中の中庭の景色の中からアーニャの姿を拾い上げ、セオドアは彼女を初めて見かけたときのことを思い出した。

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