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愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
試されるとき
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不運な遭遇 その2

 女ばかり追いかけまわしていたのは、村の男達に勝てる見込みのない者ばかりだったようだ。教会に繋がる道の前で背中に道を確保しながら襲ってくる盗賊と打ち合いはじめてすぐにわかった。こちらに向かってくる方がよほど体もしっかりしているし、剣の扱いもそれなりに様になっている。


(お前らがいつから盗賊に身を落としたかしらないが、こっちは十年前から毎日剣を振っているんだ。年季が違うわ。)


 セオドアは声を出す体力も惜しいと胸の中で言い放つと、盗賊達を睨みつけた。相手との距離を長く保てる槍を手放したのは痛いが、それでもセオドアは一対一では圧倒的に有利だ。自分と相手の体の位置を上手く使いながらなんとか一対一で打ち合う状況を作り出しては一人ずつ斬り伏せる。

「おい。何をお行儀よく並んでんだお前ら。一斉にかかれよ、一斉に!」

 見兼ねて盗賊の一人が叫ぶ。それを聞いて慌てたように3人が相次いで斬りかかってくる。一人は剣で受け止め、一人は腕当てで、もう一人の剣が胴を打つのは打つに任せた。剣の質は知れている。鎖帷子を貫くことはできない。強打されて一瞬息が詰まったが、腕当てに当てた剣を弾くと同時に一番近くにあった男の顔に肘を叩きこんだ。更にもう一人を蹴って遠ざけると最後の一人には自由になった剣を振りおろす。

 何とか最初の三人を押しのけても致命傷ではなかった者はまた立ち上がって迫ってくる。盗賊はしつこかった。ここにセオドアを釘づけにする間に無人になった村の家畜や作物を仲間が奪ってくれる。そのおこぼれに預かるには死ぬわけにはいかない。セオドアが繰り返し三人、四人からの攻撃を体でうけるうちにどこか骨でも壊されたようで体の感覚が痺れてきた。しかし、その間も村人はセオドアが守っている道を必死に走って行く。そちらに手を出そうとする盗賊を打ち払うためにどうしてもセオドアの動きには無駄が多くなり消耗が激しくなる。額から流れ落ちるのが血か汗かもう分からない。


 どれほど打ち合っていたのか、村のあちこちで上がっていた悲鳴はほとんど聞こえなくなった。逃げたか、声が出せなくなったか。とにかく助けるべき者は減っているようだ。教会の門は既に半分とじられている。セオドアはじりじりと後退して教会の扉を背負うように立つ。村人が教会に集まるのを追うように村に散っていた盗賊も集まってくる。まだ十人を超す盗賊が残っていた。どこに隠れていたのか妙に体格のいいのが出てきた。盗賊の頭領だろう。

「お前ら、残りの持ってけそうなもん集めて来い。」

 頭領は何度もセオドアに蹴り飛ばされ打ちすえられて役に立たない盗賊達をどこかへ追い払った。元気のよさそうなものばかり数名がうすら笑いを浮かべて残る。セオドアは汗でぬめる手をぬぐって剣を構えなおした。休みなく剣を振ってどのくらいの時間が経っているのだろう。ひどく打たれた背中と肩が痛い。指先が痺れてきた。甲冑の継ぎ目を狙われた傷は浅いが膝に思うように力が入らず愛馬の向きを変えるのにいつもより一拍余計に時間がかかる。

 しかしまだ背中に口を開いたままの教会がある。ここで自分が倒れて教会に踏み込まれれば村人には今度こそ逃げ場がない。


(この扉が閉じるまで倒れるわけにはいかんな。)


 セオドアは黙って盗賊達を睨み据えた。


 再び始まる乱戦の最中、ついに盗賊の頭領がセオドアの目の前に立った。長い髭、大きな騎馬、大きな飾りのついた兜からのぞく鋭い眼光。そして信じられないくらい巨大な三日月刀。伝令の途中で聞いた盗賊の三傑と言われている戦士の一人、確か怪力自慢の男がこんな風貌だったはずだ。

 咄嗟にかまえた剣で振りおろされた刃を受けると、腕に力を込めるよりも前に剣が砕け飛んだ。そのまま三日月刀が迫ってくる。体を大きく逸らして肩当てに当てさせると馬に踏まれてもへこまない肩当てが大きくへこんだ。砕けなかっただけ良かったのだろう。くだけていたら致命傷だ。しかし馬に踏まれる以上の衝撃は綿入れを通り抜けてセオドアの骨を襲った。激痛で息が止まる。目がくらんで相手の次の動きについていけない。


 もう一撃、今度こそセオドアの首筋を目がけて斜めに迫ってくる光が見えた。

 鞘に残っている短剣を抜いて首の直前で刃を受けようと腰に手をやり、汗で手を滑らせた。僅かに動きが遅れる。


 白刃がセオドアの目の前で閃いた。


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