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愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
試されるとき
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盗賊狩り

 杏奈にはセオドアに伝えたいことがたくさんできた。新しい仕事が決まった。しかも天涯孤独で可哀相だからとか、そういう理由ではなく働きぶりを見て彼女に来てほしい望まれて得た仕事だ。ヴァルター家の一同も喜んでくれている。アルフレドとアデリーンのことは、父母と本当の意味で思うことができるようになってきた。手を貸してくれる親切な人達から、何があっても最後まで自分を見捨てないでくれる家族だと信じられるようになった。ここに居ていいのだと許されたように、王都で生きて行く支度が整っていく。どれを話しても喜んでくれるだろうと思うと楽しみで仕方がない。けれど、今の杏奈には彼に会うことはできないし、連絡する術もなかった。

 セオドアの顔を見ないままもう一カ月経っている。アルフレドにそれとなく尋ねてみたところ、まだ王都へ戻っていないらしい。会わないで済むことにほっとしていられたのは一時で、自分が落ち着いてくると会えないことを不安に思うばかりだ。どこに行っているのだろう。怪我などしていないだろうか。色々なことが良い方に向かっているはずなのに今一つ気持ちが浮かないのはきっと大きな気がかりがあるせいだ。彼は無事だろうか。そして、彼が帰ってくるまでに自信を持って彼に答えられる心の準備はできるだろうか。


 杏奈は騎士団付きの文官としての職を得てから、毎日訓練所の並びにある棟に通っている。辺りは当然騎士達ばかりであるので家にいたときよりもずっと早く、多くの情報を得ることができた。今、彼らの口の端によく上るのは盗賊、夜盗の類である。どうやらモンスターの襲撃で村が全壊してしまったものや、食いぶちを稼げなくなったものが徒党を組んでいるらしい。せっかく家に戻り、畑を耕して生活を始めた村に押し入っては僅かな収穫を奪い去ってしまうのだという。しかも、その日の食事を奪う程度だった強盗が、回を重ねるうちに何か一線を踏み越えてしまったのか近頃では村人への暴力や売れそうな若者や娘達を連れ去ることまでするという。本来ならば夜盗、盗賊の取り締まりは領主の務め。王の直属である王国騎士団が出向くのは筋違いにあたる。とはいえ、まだ各地の領主お抱えの騎士達は往時の規模を取り戻しておらず治安の悪化を案ずる声が多い。


「王国騎士団の方が手を貸すわけにはいかないのですか。」

 仕事の合間にザカリーに聞いてみると、彼は苦い顔をして首を横に振った。

「王の勅命か、それなりの大義名分が無ければいけません。いかに領主が無能でその部下が腰ぬけであろうとも我々が勝手に直轄領以外で剣を振うことは認められていないのですよ。」

「どうしてです?」

「広い意味では治安のためです。領民の前で領主の騎士が王都の騎士に出し抜かれでもすれば、あっという間に権威は失墜するでしょう。そうすれば王国騎士団が去った後、そこは無法地帯になってしまう。ではどこでも我々が出て行けばいいかというと、純粋に数の上でもそれほどの数の騎士はいません。国策上も騎士を盗賊の類を駆りたてることばかりに使ってはいざという時に困ります。中途半端に手出しをすれば、そうするとあちらの領土だけ王国騎士団が手厚く面倒をみて不公平だという不満が出かねません。そんなわけで今の持ち分がちょうどいいと言うわけです。」

 ザカリーの言うことは分かる。しかし噂に聞く西方の夜盗の行いは日々悪くなる一方に聞こえる。領主殿というのは何をしているのだろうか。杏奈にまだ気がかりがあることを見てとってザカリーの部下の一人が言い添えた。

「今回はモンスター退治の遠征の絡みもあるから、少しは手助けすることになるみたいよ。何よりアンドリュー師団長がこれを見過ごしに部隊を引きあげさせはしないさ。」

 まだ第三師団の騎士達は村々の再建のために各地に留まっている。そうした村はきっと無事なのだろう。

「ちょうどほら、アンナの御父上のヴァルター隊長の部隊があちこち手を回しているらしいから。そう心配しないで。」

「そうなんですか?」

 アルフレドは家で任務の詳細を話さないので杏奈にしてみれば初耳だ。聞き返したらザカリーに横から止められた。

「ここを手伝ってもらっていても、彼女は騎士の作戦行動を知らせて良い相手ではない。弁えろ。」

「失礼しました。アンナ、ごめん。今の忘れて。」

 ビシッとザカリーに謝罪した後で、彼は申し訳なさそうに杏奈を振り返ってから大人しく自分の仕事に戻った。どうやらアルフレド達の仕事は秘密にしなければならないものらしい。


(だから、セオドアさんも連絡が無いのかしら。)


 彼は一カ月も音信不通になっている。アルフレドに聞いてもチェットに聞いても「仕事」としか帰って来ない。一体何の仕事かは言えないのだろうと諦めているが、ここまでの話で少しは想像できる。領主の手前、大手を振っては取り組めない盗賊退治に秘密裏に駆け回っているのではないだろうか。きっと現地に残っている部隊の間を渡り歩きながら盗賊狩りの計画などを進めているのだろう。


(危ないことがないのなら良いけれど。)


 盗賊狩りという言葉は何度も耳にしても、その意味する本当のところを杏奈は知らない。相手は人間で、しかし、多くの場合全員を生け捕りにはできない。相手が降伏するまでの間は命を奪う覚悟で挑まなければ、自分が危ないからだ。取り逃がせば、彼らは逆恨みをして近隣の村により手ひどい攻撃をする。一人も逃がしてはいけない。走り去る背中に向けて矢を放つことさえ必要になる。相手の根城が分かっていれば奇襲もかけられるが、そうでなければ村に張り込み、襲ってきたところを返り討ちにするのが一般的だ。そうなると、騎士は村人を守りながらの戦いになる。火でも放たれたら手が回らない。盗賊狩りはなかなかに危険が多く、失敗した時に失うものも多い難しい仕事だった。


 黙って不安げに考え込んでしまった杏奈が案じているのは、養い親のアルフレドかそれとも随分と噂になっていたセオドアか。ザカリーと部下二人は余計な気休めや、無駄に不安を煽るような情報を伝えても仕方がないと敢えて口を閉ざした。

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