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愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
村の教会の小さな家族
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金の髪

「まあ、ミーナがお前に懐いてくれたのは本当に助かってるけど。」

 アーニャの頭から手を離してからしばらく黙っていたウィルが不意にそう呟いた。

「ミーナ?」

 確かに彼女はアーニャに特別良く懐いているが、聞きわけも良いし扱いにくい子だと思ったことはない。

「あいつ、すごい人見知りで。特に男はダメみたいなんだよ。村に居た時も、なかなか口きいてくれなくてさ。今もアーニャには話しかけても、俺には自分からは絶対寄って来ないぞ。」

 苦笑いしながら、そう指摘されて思い返してみると確かにそうだった。ミーナは女の子には話しかけるが男の子たちに自分から話しかけているところを見たことが無い。

「言われるまで、気がつかなかったわ。」

「母親が傍にいると少しはいいんだけど。」

 そこまで言ってウィルは真顔に戻ってじっと向かい側の壁をみつめた。

「ここには、あいつの家族は一人もいないから。」

 アーニャは無言で頷いた。人見知りがなくたって、幼い子供が親から急に引き離されたら不安になる。母親に懐いていたというのならミーナのショックは人一倍だったろう。

「アーニャが来てくれて本当についてた。」

「私、特別に何かできたとは思えないけど。」

 懐かれている自覚はあるが、原因が思い当らない。そういうとウィルはアーニャの長い髪を指さした。

「たぶん、これ。」

「これ?」

 髪を一房摘まんで見せると、ウィルは頷いた。

「金髪はこの辺りじゃすごく珍しい。この教会にいるのだって、お前と、ミーナとあとは王都からきた騎士様が少しいるくらいだろ。だいたい、俺と同じ黒い髪か、茶色だから。」

 アーニャの髪は金髪というには少しくすんでいたが、確かに光が当たると鈍く光る色は金が一番近い。

「あいつの母親が金髪なんだ。村ではすごく目立つからチビどもによくからかわれてた。この状況では、さすがに誰も言わないけどさ。」

 アーニャは初めてミーナにあった日に、彼女に飛びついて来た様子を思い出す。誰かに頼りたいのだと思ってはいたが、たくさんの顔見知りの村人がいる中で一番に彼女に懐いた理由まで考えたことは無かった。金色の髪に母親を重ねていたからだったとは全く想像もしていなかった。確かにウィルの言う通り、この教会にいる村人は暗い色合いの髪色の者がほとんどで、金ほど明るい色をしているのは騎士を除けばアーニャとミーナだけだった。


「ミーナがかわいいから、からかわれちゃったのかしら。」

 少年が好意をもった女の子を苛めると言うのはよくある話だったと思う。

「お前は、変なことはちゃんと覚えているよな。」

 ウィルは含み笑いをもらしながら頷いた。

「誰も絶対認めないだろうけど、そうだと思うよ。あいつの母親もすごい美人で遠くの街まで買い出しに行ったあいつの父親が一目ぼれして必死に口説き落として連れて帰ってきたって聞いてる。実際、今でも綺麗だしな。」

 ミーナは金色の髪に薄い茶色の目をしている。まだ幼いが大きな瞳やふっくらした口元は将来有望な美少女である。

「ミーナも可愛いもんね。」

 彼女の笑顔を思い起こしてそう言うと、ウィルはもう一度頷いた。

「村の大人たちは、アーニャのことをミーナの母親の家族で、ちょうどうちの村に訪ねてくる途中だったんじゃないかって思っているのが結構いるよ。」

「へえ。金髪ってそんなに珍しいの。」

 アーニャが自分の髪をしげしげを眺めてそう言うのを聞いて、ウィルはなんとも言えない表情を浮かべたが、「まあ、この辺ではな。」とだけ返した。


 ちなみに村の大人たちの噂話には、「あの金髪に、整った顔立ちは間違いない」という一節がいつもついて回っているのをウィルは知っていた。アーニャとミーナの母親は瞳の色こそ異なるが、色素の薄さや華奢な体つき、整った顔立ちのどれもが似ている。ウィル自身もこの噂はかなり真相に近いのではないかと思っているのだが、顔立ちについての一節を面と向かって彼女に語る気にはならなかった。


「もちろん、髪の色だけじゃなくて、いつも話を聞いてやったり、食事や着替えの世話してやったり、傍にいてやってくれてるから今もひっついているんだと思うけど。それも含めて、助かってるって話。」

 ウィルは強引にそう締めくくった。話題を変えたい気配を察してアーニャはそれ以上ミーナの家族の話は聞かなかった。

「ん。ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ。お世話になってばっかりだから。ウィルやみんなには感謝してる。」

 ウィルはアーニャがお礼をいうと不本意そうに、首を横に振った。

「だから、世話になってばっかりなんかじゃないって話を今してたんだろ。ちゃんと役に立ってるから、変な遠慮とか無理はしないでいいんだぞ。」

 じっと目をみて表情をうかがうように覗きこまれる。心配性の兄弟がいたらこんな感じだっただろうかとアーニャはウィルの表情を見て不思議な安心感を覚えた。そして心が温まるのを感じて自然と微笑みが浮かんだ。

「掃除はね、無理はしてないから。むしろ、このまま汚いところで暮らせって言われる方が無理。だから、やらせてね。」

 そういうと、ウィルも「しつこい奴め。止めないってさっき言ったろ。」と笑った。

「明日も頑張るなら早く寝とけよ。」

 ウィルのその言葉を潮にアーニャはいつもの自分の寝床に戻った。


 子供たちが寝静まっても礼拝堂の奥ではまだ大人たちが小さな声で話をしている。低いざわめきを聞きながらアーニャとウィルはそれぞれに眠りに落ちて行った。


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