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愛していると言えば、嘘になる  作者: 青砥緑
村の教会の小さな家族
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ちょっと相談

アーニャは子供達を寝かしつけながら、明日以降のことについて思いを巡らせていた。

子供達に不安な思いをさせたくはないが、今の教会内の環境はやはり耐えがたい。


「ねえ。ちょっと相談したいんだけど。」

いつもは子供達を挟むように両脇に離れて寝ているウィルとアーニャだが、子供が寝静まった後で小声で話すにはその距離は遠すぎる。アーニャがウィルの隣を指さして行っていいか、と聞くとウィルは壁に寄りかかって座った姿勢のまま寄ってくるアーニャの為に少し体をずらして、自分の横をポンポンと叩いてみせた。

「ありがと。」

アーニャはそっとその隣に腰を下ろす。

「なんだよ、改まって相談なんて。」

大きな瞳をまっすぐアーニャの方へ向けて心配そうに問いかけられる。

見つめあうにはあまりに近い距離だったので、アーニャは彼の投げ出している細くて長い脚の先の方をみつめて話し始めた。

「掃除、のことなんだけど。あれは、もしかしてやってはいけないことなのかな。」

「いけない?」

促すように聞かれて、軽く頷く。

「私は、あまり変わったことというか、変なことをしたつもりは無かったんだけど、みんなびっくりしてたし、心配もしてくれたでしょう?本当は明日も明後日も続けてやりたいと思っていたんだけど、実はやってはいけないことだったんじゃないかと思って。」

そこまで言いきってから、隣の様子を窺うとウィルは眉を寄せて「うーん」と唸った。

「いけないってことはない。ただ、掃除って言うと罰掃除の印象がな・・。なんか悪いことをするとやらされるというか。」

すこし伸びてきた黒い髪を掻きあげながらそういう口調はやや苦い。

「でも、家の掃除とかはどうしてたの?しないわけにはいかないでしょう?」

「床を磨いたり、今日アーニャがやってたようなことは掃除屋の仕事だよ。普通の村の連中はやらない。それこそ罰掃除くらいだ。」

「掃除屋?」

「人の家の掃除をして、金をもらって、それで生活する人のことだよ。」

「それは、普通の村人じゃないの?」

アーニャの頭の中では掃除が仕事として成立するところまでは理解できるが、それが「普通の村の連中」に含まれないところが分からない。

「墓掘りと一緒だ。村にいるけど村人には数えない。」

あっさりと言い返されて、アーニャは目を瞬かせた。

「人なのに、人だと思わないってこと?」

ウィルは、その質問に首を横に振った。

「人は人だよ。村人じゃなくたって人間だ。」

アーニャは益々混乱する。

「村人とそういう人の違いってなんなの?」

「村に税を納めないし、村のルールにも含まない。でもそれだけだよ。あとは変わらない。同じように飯も食うし、話もする。」

アーニャは眉を寄せて考え込んだ。話を聞く限り、人に厭われがちな仕事を引き受ける人々で特別な扱いを受けているようだが、それが悪いのかそうではないのかが分からない。


「よく、分からないな。」

ただ、そう呟くとウィルもそれ以上説明する術がないのか眉を寄せてしばらく黙りこんだ。


「で、掃除は普段掃除屋さんの仕事だとして、ここにそういう人はいないの?だったら私が続けても誰かの仕事をとったことにはならないよね?」

考え込んだ後で、アーニャがそう結論づけてウィルに問うと、ウィルは驚いたというか呆れたような顔をでアーニャを見下ろした。

「こだわるなあ、お前。掃除屋も何人かここにいるけど、ここまできて仕事とか言わないだろう。お前が掃除して誰かから金をもらうんじゃなけりゃ大丈夫だろ。しかし、なんでそんなに掃除が好きなんだ?信じらんねえ。」

「なんでかって言われても、ただ、なるべく綺麗な家に住みたいって思わない?だったら自分で綺麗にしたらいいと思うだけよ。」

ウィルは「だけねえ。」と言いながら首を傾げたが、納得しなくてもアーニャを止めるつもりはないようだ。

「まあ、無理はするなよ。重いもの運ぶくらい手伝ってやるから声かけろよ。」

そういって骨ばった手でアーニャの頭を力任せにわしわしと撫ぜる。

「わ、痛いって。でも、ありがとう。チビ達をほったらかしにし過ぎないように気を付ける。今日はみんな押しつけちゃってごめんね。」

その手から逃れながらアーニャが礼を言うと、ウィルはいたずらめいた表情から優しい目になって、にっこりと笑った。

「気にするな、アーニャが急に来なかったら元々俺が一人で面倒をみていた奴らなんだから。よくやってくれてるよ。」

今度は優しく、改めて頭を撫でられてアーニャは少し恥ずかしくなる。

(急に大人びた顔をして)

内心だけで文句を言いながら、彼女は黙って頷いた。

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