夏休み
私は貝原あかね。
小説を書くのが好きで図書委員。
陰キャだけど。
不知火さんのお陰で一歩すすめた。
私は今モーレツに不知火さんに興味を持ってしまった。
彼女が借りた本は必ず目を通したし、彼女のオススメした本は片っ端から読み漁った。
彼女がなぜ彼女たりうるのか。
そこに興味があった。
好奇心なのか、憧れなのか。
自分の気持ちはわからない。
ただ不知火さんに、少しでも近づきたい。
そう思った。
来週には夏休みに入る。
その間は不知火さんとは、離れ離れ。
遊びに行くほど、仲良くはない。
むこうは友達とも思っていないかもしれない。
ただのクラスメイト。ただの図書委員。ただの情報源。
そう思われているかも。
でもそれでもいい。
彼女に利用されてもいい。
ただ彼女の近くにいたい。
そう思った。
でも近くに行く口実がない。
どうしよう。
そう思いながら、ラノベを読んでいると。
夏休み前に、友達と水着を買いにいき、泳ぎにいくというイベントが多いことに気が付いた。
これだ。
間違いない。
不知火さんは、クラスメイトの高木鏡花と餅梨順子と小説について語っている。
話題は死亡フラグについてだった。
話題は戦いに行く前に
「俺この戦いが終わったら、彼女と結婚をするんだ」
と言った男はなぜ死ぬかというテーマだった。
なに?そのテーマ……。
ここにどう自然な流れで、水着回に行く話にするの?
考えろ私。作家の端くれじゃないか。
「ある作家が、処女作で”戦いが終わったら何かをするというようなチキン野郎は、戦場でもやられる可能性が高いんじゃない”みたいな事書いてた」
と餅梨さんは言った。
「たしかにそれあるかも……」
と高木さんは言った。
「かなり本質をついているわね。しかし処女作でぶっこんでくるような話題じゃないと思うの。よっぽど主張したかったんでしょうね」
と不知火さんは言った。
「初めての作品って、いままで溜まったものがどバンと出るのよ……きっと」
と私は言った。
よかった。話に入れた。
ここから、どう切り出す。
「そういえば、この時期ってラノベ的に言えば、必ず女友達と水着買いに行くってイベントあるけど、経験ある?」
と餅梨さんは言った。
ウォー。餅梨さん最高。
高木さんも不知火さんも首をふる。
「ない」
うわ。ヤバ。これ終わる方向じゃないの。
頑張れ私。
「実は私……、
あのシチュエーション一回でいいから経験してみたいんだ」
と私は言った。
「そう。
いいじゃない。よかったら私が付き合うわよ」
と不知火さんは言った。
「じゃあ。私も……」
と餅梨さんと高木さんは言った。
私は天にも昇る思いだった。
そこから今度の土曜日に近くのショッピングモールで待ち合わせして、水着を見るという事が決まった。
……
私服姿を披露するなんて緊張すると思いながら、3時間なやんで、オーバーオールとボーダーのTシャツに決めた。子供っぽいかな……。
ショッピングモールの入り口の隅っこの方で待ってると、
遠くから大人っぽい恰好をした黒髪の美少女がやってくる。
キレイな人だなと思ってチラチラ見ていると。
どんどんこっちにやってくる。
えっ見てたのバレた。
怒られる……
「おはよう。貝原あかね」
声をかけられた。
えっ知り合い。
そう思ってよく見てみると、それは不知火さんだった。
「キレイな人だなって思ってたら、不知火さんだったの。大人っぽくてビックリした」
と私は言った。
「そう。これお母さんのを着ているの。似合ってる?」
と不知火さんは言った。
「すごくキレイでうらやましい」
と私は言った。
「あなたもとても可愛いわ」
と不知火さんは言った。
「ありがとう。不知火さんに言われるとうれしいよ」
と私は言った。
「そう」
と不知火さんは言った。
「おまた」
と高木さんと餅梨さんがやってきた。
私たちは、水着売り場を確認し、まず水着売り場に向かう事にする。
色とりどりの水着があって、どれを選んだらいいか迷う。
私は不知火さんをちらっとみる。
不知火さんはどんな水着を選ぶんだろう。
不知火さんは、水着売り場をざっと見て、迷わず何点か選んでいる。
その姿を見て
「はや……」
と高木さんと餅梨さんが言った。
私もそう思う。
「あの……不知火さん。なんでそんなに早く選べるの?」
と私は言った。
「私は水着に対して執着がないの。だからできれば長く着れるものが良いと思ってる。そして私は黒を着ることが多い。そして黒のビキニであれば、この条件に適合すると思ったの」
と不知火さんは言った。
「そっか。不知火さんすごい」
と高木は言った。
「私なんて体形に自信がないからメッチャ悩む。いいな不知火さんはスタイル良くって」
と餅梨さんは言った。
不知火さんと餅梨さんはスレンダー体形。
高木さんは胸が大きくって私は幼児体形。
「私からしたらみんなスタイル良いよ。私なんて幼児体形だもん」
と私は言った。
「貝原あかね、餅梨順子、気にする必要ないわ」
と不知火さんは言った。
「気にする必要ないっていっても、モテるモテないとかあるじゃない。やっぱり鏡花みたいに胸が大きいほうが良いよ。私盛ろうかな」
と餅梨さんは言った。
「四足歩行……つまり猿の時代はヒップがセクシーさのアピールだったわ。
それが二足歩行に変わって、胸がお尻の代わりになったという説があるの。
そして男性でも胸が大きい人が好き、お尻が大きい人が好きなど。
いろいろと好みがわかれるわ。
そしてその時代ごとで、国ごとで魅力的な女性の基準は変わったりもする。
つまりこの基準は一定水準ではないの。
アニメでも細いキャラ、胸の大きなキャラ、幼児体形のキャラ。
こんなに多用なキャラがなぜいるかわかる?
需要があるからよ。
もし胸の大きいものだけが、人気なのであれば、胸の小さい人は遺伝子を残せず淘汰され、絶滅しているはず。
でも現に胸の大きな人は少数でしょ。
これが答えなのよ。
胸で競争なんかしてはダメ。
極端に言えば、上はいくらでもいる。
サイズじゃなく、神が与えたサイズをいかに美しくみせるかで勝負なさい。
盛って彼氏を作ってどうなるの?
別の意味で脱いでびっくりなんて、恥ずかしくない」
と不知火さんは言った。
「不知火さん……」
と餅梨さんは泣きそうになりながら言った。
高木はうんうんとうなづきながら、餅梨さんの頭をなでた。
チッパイは需要がある。
そんな慰めはたくさんある。
でも”もし胸の大きいものだけが、人気なのであれば、胸の小さい人は遺伝子を残せず淘汰され、絶滅しているはず。
でも現に胸の大きな人は少数でしょ。
これが答えなのよ。”
とここまで論理的に説明してくれた人はいなかった。
私には不知火さんが神々しく見えた。




