期末テスト
不知火さんとは、面白い小説を教え合う仲にはなった。
ただそれ以上は進展しなかった。
俺と不知火さんの接点は
・同じクラス
・小説の好みが似ている
・黒猫を探すのを手伝った
くらいだ。
でも同じクラスの男子の中では、一番不知火さんと話した時間は長いはず。
そういう誇りは持った。
うん……
これは誇りなのか。
そんな事をぼんやり考えていると、同じクラスの大空大輝が話しかけてきた。
アニメ好きの友達だ。
よくよく考えると、こいつと友達になったのも、不知火さんのお陰かもしれない。
「健。お前中間テスト結構良かったよな」
と大輝は言った。
「まぁ上の方ではあるけど」
と俺は言った。
「お前頭いいんだな」
と大輝は言った。
「いや。そんな事はないと思うぞ。ほら不知火さんとか、学年トップだし」
と俺は言った。
「不知火さんは、あれ特殊でしょ。天才だもん」
と大輝は言った。
「たしかに天才だよな」
と俺は言った。
「あんな人は次元が違うよ。あぁヤバいな。赤点かもな」
と大輝は言った。
「そんなに悪いのか」
と俺は言った。
「おうよ。半端に悪じゃねぇよ」
と大輝は言った。
「いや。そこ、そういう使い方じゃないだろう」
と俺は言った。
「つっこみアザす」
と大輝は言った。
「それより、大丈夫なのか?放課後図書室で期末テストの勉強して帰るか?」
と俺は言った。
「それはありがたい」
と大輝は言った。
「わかった。じゃあ放課後な」
と俺は言った。
「頼むよ」
と大輝は言った。
……
放課後
図書館で勉強をしていると、
不知火さんがやってきた。
俺が手を振ると、
「勉強しているの?緒方健」
と不知火さんは言った。
「そうだよ。不知火さんも勉強?」
と俺は尋ねた。
「そうよ。そちらはたしか……翼君的な人じゃなかったっけ」
と不知火さんは言った。
「大空大輝」
と大輝は言った。
不知火さんの記憶ってそれ大空的な感じだよな……。
「大輝に勉強を教えているだ」
と俺は言った。
「そう。それは良い友達を持ったわね。勉強を教えれるなんていいじゃない」
と不知火さんは言った。
「ちょっと待って。勉強を教えるなんて、時間のムダとかじゃないの?勉強できないし」
と大輝は言った。
「俺もそう思って、ちょっと焦ってた」
と俺は言った。
「それは勘違いよ。人間は人に教えることで、記憶が強く定着するの。これはインプットとアウトプットの関係よ。インプットばかりだと、知識を使わないから、頭にちゃんと入っているかどうかわからない。でもアウトプットを多くする。つまり教えると頭に定着する」
と不知火さんは言った。
「じゃあ。健は俺に感謝しないとな」
と大輝は言った。
「別にあなたに教えなくても、テスト形式でテスト勉強をするという方法もあるから、感謝するのは、やはり教えてもらっている大空大輝のほうよ」
と不知火さんは言った。
「よかった。教えさせてくれてありがとうなんて思えないもんな」
と俺は言った。
「そうね」
と不知火さんは言った。
「まぁでも俺は大輝だけに大器晩成だからな。今やらなくても将来キラっと輝く星になるんよ」
と大輝は言った。
「大輝だけに……大器晩成といってもな」
と俺は言った。
「大器晩成という言葉は、たしかにあるわ。でもね。大器晩成は、大きな器を作るには朝から晩までかかるという事。つまり手間が大きくかかるという意味よ」
と不知火さんは言った。
「えっそうなの?」
と大輝は言った。
「そうよ。今のあなたは大器晩成ではなく。ただの怠惰にしか見えないわ」
と不知火さんは言った。
「いや。そんなに厳しい事を言ったって、俺目標ないんだから」
と大輝は言った。
そうか……大輝は目標がないのか。
でも俺も、目標なんかあったっけ……。
「目標がないなら、今目前にある義務を自分の最高水準でやり遂げなさい。
それがあなたの、大空大輝という物語を最高のものにする布石になるわ。
あなたの人生と言う名の物語には、あなたという名監督がいる。
せいぜい励みなさい」
と不知火さんは言った。
「そうか。目標がないなら、今を自分の最高水準でやり遂げればいいのか……。
ありがとう不知火さん」
と大輝は言った。
「気にしないで」
と不知火さんは言った。
ほとんど『待機』状態だった大輝は、不知火さんの一言がきっかけで、名前の通り大きく輝くことになる。
俺は『目標がないなら、今を自分の最高水準でやり遂げればいい』この言葉をスマホのメモに入力した。
彼女の言葉は、美しかった。
俺ははじめ……おそらく彼女の容姿にひかれたんだと思う。
でも近くで話して、彼女の匂いにひかれた。
そして彼女の言葉にもひかれた。
俺の中で、彼女の側に立てる人間になりたいという気持ちが芽生えだした。
今を自分の最高水準でやり遂げれば、それは叶うのだろうか。
そんな事を考えだした。
図書館での勉強は17時近くまで行われた。
大輝の苦手箇所が俺も大輝もよくわかった。
そして対策もたてることができた。
なにより、大輝のやる気の出具合がすごかった。
目が明らかに違った。
校門を出て少しした時。
「不知火さんは彼氏とかいるのかな」
と大輝は言った。
俺はその一言に激しく動揺してしまった。
不知火さんに彼氏がいるのかどうか。
俺は考えを巡らした。
どうなんだろう。
彼氏がいるのかな。
でも学校ではそんな風には見えないし。
「ほら美人だし、中学校とかでもモテてたと思うんだ」
と大輝は言った。
たしかに中学校から付き合っていた彼氏がいたとしても不思議ではない。
いやでも……
そんなこと考えたくない。
「そういう事を考えるのは不健全だ」
と俺は言った。
「そうか?不健全か。普通に気になるだろ」
と大輝は言った。
そうか。普通に気になるか。
あれ。
俺そんな事気にしてたっけ。
あれ。
全然考えてもなかった。
フリーだと思ってたのかな。
うん?
ただ何も考えていなかった。
なんなんだろ。
この気持ちは……。
俺は自分の気持ちを深掘りするのが怖かった。
そして笑ってごまかした。
心がギシギシといってきしむ音がした。




