表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

暴投ではなく『冒頭』

「先生。

現代文の授業を始める前に、次回のテストでどこが出るか。

前もって教えてもらえませんか?」


そう言った女子がいた。

皆その生徒のほうを見る。


そこには黒髪ロングのミステリアスな美少女がいた。

不知火直しらぬいなお


それが彼女の名前だ。


「何をイキナリ言っている。

君は……不知火君か。

テストはどこが出るかわからないから真面目に学習をする。

だから成績が伸びるのだ」

先生はそう言った。


「しかし多くの教諭は”ここテストに出るからな”とおっしゃります。

そしてその授業の重要ポイントはテストに出ます。

しかしながら我々生徒は、先生方の授業から、どこが重要であるか判断することができません。

ですので、授業の冒頭で、中間テストまでの範囲で、どこが重要であるか。つまりテストにでるかという事を示して頂きたいのです」

と不知火さんは言った。


生徒たちは頷いている。


「不知火君のいう事はわかる。たしかにそれは一理ある。しかし前例がないのだよ」

とツノダ先生は言った。


「先生。お言葉ですが、今日という日は、その時点で前例がありません。私がツノダ先生に授業を受けるというのも前例がないですし、ツノダ先生が私に授業をするのも前例がありません。

つまり前例がないと表現すること自体が、詭弁なのです」


「そうか……。たしかにな。ただな。はじめてだからな」

とツノダ先生は言った。


「優しくしますから、安心してください」

と不知火さんは、ふっと笑みを浮かべた。


なぜだかその言葉に、ツノダ先生は顔を真っ赤にしてうつむいた。

その後ツノダ先生は、中間テストまでの重要ポイントをまず解説し、そこから授業は始まった。

不知火さんが言うように、あらかじめ重要なポイントを理解しておくことで、授業の理解は深まった。


生徒たち全員の目の色が変わったのが面白かった。

俺と同じように、理解度が高くなったのだろう。


授業が終わって、多くの生徒が不知火さんの所に集まった。


「ありがとう。不知火さんの一言でわかりやすくなったよ」


「他の授業も頼む」


「不知火さん、まじ天才」


皆が一斉に彼女を評価した。


「私は自分のわがままを通しただけよ。勘違いしないで」

と不知火さんは言い、教室から出て行った。


……


俺は緒方健。

不知火さんのただの同級生。

俺の通う高校『水晶学園』は、男女共学で平均的な偏差値の高校だ。

入学式の時に俺は思った。

特にキャラ立ちした目立った生徒はいない。

だから、アニメのように、面白い高校生活みたいなのは送れないのではないかと。


しかし不知火直……

彼女は違った。

彼女はただまっすぐという意味で凡人にとっては異質だった。


……


水晶学園の入学式が終わり、

1年1組の初めてのホームルームが開かれた。


「はじめまして。

私があなた達の担任の安堂充子です。

生徒からはあんみつ先生って言われてます。

好きに呼んでね。

担当は数学です。

部活は手芸部の顧問をしているわ。

では出席を取っていくから、

軽い自己紹介をしてね」

とあんみつ先生は言った。


「先生」

と声がかかる。

すっとクラス全員の目がそこに集る。

そこにはすっと手を上げた長い黒髪の美少女がいた。

俺はこの瞬間から彼女から目が離せなくなった。

これがどんな気持ちなのかわからない。

ただ……、

彼女の全ては俺に困惑と感動を与える事になった。



「えっと……、不知火さんかな。どうしたの?」

とあんみつ先生は言った。


「軽い自己紹介というと、どのような自己紹介なのでしょうか?

こういう場合、はじめに自己紹介をした人の真似をする生徒が多くなります。

自己紹介をしてねという先生の意図は、推測ですが、自己紹介をすることで、友達になる接点を見つけてね。という事だと思います。

しかしながら、生徒というものは、その先生の意図を見抜けず、また恥ずかしいという事で、自分の趣味などを開示できないことが多いです。

それゆえ、1年の冒頭で、他人の趣味を慎重にうかがうという行動にでます。

ここで行動に失敗をしたものは、高校生ライフが送りにくくなります。

この点はどうお考えでしょうか?」

と不知火さんは言った。


あんみつ先生は考え込んでいる。


「……たしかに不知火さんの言う通りね。うーん。じゃあ、友達になるのって、なにでなるかな?みんな意見ある」

とあんみつ先生は言った。


「俺は野球やってるから、スポーツやってる奴は気が合うかな」


「私はアニメが好きだから、アニメ好きの友達を作りたい」


「私は服に興味があるから、おしゃれ好きの友達が欲しい」


いろんな意見が出た。



あんみつ先生は、腕をくんで、考え込んでいる。

「……なるほどね。こういうのが事前にわかってたら、友達作りやすいって人、手を上げて」

と言った。


全員が手を上げた。


「そうか。じゃあとりあえず、スポーツ。アニメ。おしゃれ。食べ物。小説。いろいろあると思うけど。それぞれで手を上げていこっか。不知火さん。こういうのはどうかな?」

あんみつ先生は言った。


「それはわかりやすいと思います」

と不知火さんは言った。


「じゃあ。まずスポーツが好きな人。手を上げて!趣味が多い人は複数回あげてもいいから」

とあんみつ先生は言った。


生徒たちが手を上げていく。

そして、スポーツ。アニメ。おしゃれ。食べ物。小説。それぞれの趣味が明らかになっていく。


「……面白いわね。すごくわかりやすいかも」

あんみつ先生は言った。


生徒たちも皆満足そうだった。


ホームルームが終わると、自然の趣味つながりで集まりが出来ていた。


よくある……、

イキナリぼっちが生まれる光景はそこにはなかった。


俺はアニメの集まりに、不知火さんは小説の集まりにいた。


俺は思った。不知火さんはどんな小説を読むのだろうか。

小説からアニメ化するケースも多いから、俺も……。

そう少し思った。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ