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あなたの孤独をほどくまで  作者: らぴな
第1章 忘却の森

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第16話 力の片鱗

「……ああ。話そう」


 カインは重く頷き、王都の現状、そして自身に起きたことを語ろうと口を開いた。

 だが、その言葉が紡がれるよりも早く、横から涼やかな声が割り込んだ。


「ちょっと待った。カイン」


「……なんだ、ルキ」


「暗い話の前に、もう一杯頂けるかな?このハーブティー、思いのほか僕の好みに合う」


 ルーカスは、空になったカップを優雅にマリアに差し出した。

 張り詰めた空気をあえて壊すようなマイペースさに、カインは毒気を抜かれたように溜息をつく。


「あ、はい!すぐに」


 マリアは慌ててルーカスから空のカップを受け取る。

 ポットを持ち上げ、ルーカスのカップに琥珀色の液体を注いだ。

 湯気と共に、カモミールの優しい香りが広がる。


「どうぞ、ルーカス様」


「ありがとう、マリア」


 マリアがカップを差し出す。


 ルーカスは、それを受け取ろうと手を伸ばし——カップではなく、それを支えるマリアの両手を、その上から包み込むように、ぎゅっと握りしめた。


「えっ……?」


 マリアが驚いて身を固くする。


 ルーカスの手は冷たかった。

 手袋越しであるにもかかわらず、そこから冷ややかな水が染み込んでくるような、奇妙な感覚。


「ほう……」


 ルーカスは、マリアの手を握ったまま、興味深そうに目を細めた。

 彼は、まるで未知の鉱脈を探り当てるかのように、手袋の上から親指でゆっくりとマリアの甲をなぞる。


 指先に伝わる、ビリビリとした拒絶の感触。

 布一枚を隔ててもなお、皮膚の表面で渦を巻くように蠢く、異常なほど高密度な魔力の奔流。


「……なるほど。これは、予想以上だ」


 彼のエメラルドブルーの瞳が、三日月のように細められ、腹黒く、底知れない研究者の笑みを浮かべる。

 それは、マリアを人間としてではなく、希少な実験動物を見るような目だった。


「やっぱり君の魔力は……おもしろいね」


「あ、あの……ル、ルーカス様……?」


 マリアは、その視線の圧と、手を離してくれない恐怖に、困惑して身をすくませる。


「——ル、キ」


 鋭い声と共に、殺気にも似た冷たい視線が、横からルーカスを射抜いた。


 ――カインだ。

 彼は、テーブルの下で拳を握りしめ、不機嫌さを隠そうともせずに幼馴染を睨みつけていた。


「マリアが困っている。……その手を離せ」


 カインの視線には、純粋にマリアを怖がらせるなという警告に加え、彼自身も無自覚な、独占欲に近い苛立ちが含まれていた。


「おっと、怖い怖い」


 ルーカスは、そんなカインの心中を見透かしたように、口の端を吊り上げた。

 彼はパッとマリアの手を離すと、両手を挙げる降参のポーズをとる。


「冗談だよ。つい、珍しいものを見ると触れたくなる性分でね」


 その軽薄な態度に、カインは深く、呆れたようなため息をついた。

 だが、その目は笑っていない。

 カインは、マリアの二の腕にそっと手を添えると、彼女を自分の側——ルーカスから遠ざける位置へと、グイと引き寄せた。


 不意な力に、マリアの体がよろめき、カインのたくましい腕にぶつかる。


 とっさに顔を上げると、すぐ隣にカインの横顔があった。

 無言で自分を庇う、その姿と、触れ合う腕から伝わる確かな熱に、マリアの鼓動が、トクンと一度だけ大きく跳ねた。


「……悪趣味な性分だ。だが、ルキ。お前なら何か分かるんじゃないか?」


 カインは、真剣な表情で問いかけた。


「マリアの、この力の正体が。なぜ俺の呪いを鎮められるのか」


「ふむ」


 ルーカスはハーブティーを一口すすり、カップを置いた。


「今はまだ断定はできないけど……ある程度の予測はついているよ」


「本当ですか……!?」


 マリアが身を乗り出す。


「そうだねぇ……」


 ルーカスは勿体ぶるように呟くと、何もない虚空にスッと手を伸ばした。


「え……?」


 マリアが瞬きをした、その時。


 ルーカスの指先が触れた空間が、まるで水面のように波紋を広げ、ぐにゃりと歪んだ。

 そこには何もないはずなのに、彼の手首から先が、空間の裂け目へとズブズブと沈んでいく。


「こ、これは……?」


亜空間収納アイテムボックスだ。高位の魔術師だけが使える、次元の隙間を物入れにする魔法だよ」


 カインが、呆れたように補足した。


「こいつがここまで手ぶらで来られたのも、この魔法があるからだ」


 マリアは目を見張った。


 荷物を持ち運ぶ必要すらない魔法。

 彼が若くして宮廷魔法師団のトップに立っている理由の一端を、垣間見た気がした。


 ズズズ……と、歪んだ空間からルーカスが手を引き抜く。


 その手には、一本のネックレスが握られていた。

 独特な装飾が施された、独特な緑色のオーラを放つ緑色の宝石が嵌め込まれたものだった。


「これは……?」


「ただの魔道具さ。……マリア、ちょっとこれに触れてみてくれないかい?」


 ルーカスが、そのネックレスをテーブルの上に置く。

 そこから発せられる澱んだ気配に、カインが眉をひそめた。


「おい、ルキ。危険なものじゃないだろうな」


「失礼な。ちょっと『寝れなくなる呪い』がかかっただけの魔道具だよ。古代遺物アーティファクトほどの強力な効果じゃないし、仮に呪われても僕が解呪できるレベルだ。安全だよ」


「なんてものを持ち歩いているんだ……」


 カインが呆れたように頭を抱える。


「さあ、マリア。手袋を外して、この石に触れてごらん」


 ルーカスは、まるでとっておきの悪戯を企む少年のように片目をすがめ、口の端を吊り上げてマリアを促した。

 その無邪気なプレッシャーに抗えず、マリアは恐る恐る手袋の縁に手をかけた。


(呪いの道具……。でも、私の力が分かるなら)


 マリアは意を決し、震える指先を、緑色の宝石へと伸ばした。


「……っ」


 指先が、冷たい石の表面に触れる。


 ――その瞬間。


 宝石から溢れ出していた緑色の不気味なオーラが、マリアの指先に向かって、急速に吸い込まれるように収束していくのを感じた。

 いや、吸い込まれているのではない。

 荒ぶっていた魔力の波が、マリアの指が触れた一点から、急速に静止していく。


 シュゥゥゥ……という音なき音が聞こえるようだった。


「あ……」


 オーラが完全に収束すると、宝石の色が変貌した。

 毒々しい緑色だった石が、澄み切った、鮮やかな青色へと変化し、静かな輝きを放ち始めたのだ。


「……色が、変わった?」


 マリアが目を丸くする。


「どういうことだ、ルキ」


 カインが身を乗り出す。


「やっぱりね」


 ルーカスは、テーブルの上のネックレスを優雅に摘み上げた。


 毒々しい緑から、澄み切った青へと変貌を遂げた宝石。

 彼はそれを、太陽にかざすように愛おしそうに眺めると、鎖を人差し指に引っかけ、遊ぶようにくるくると回し始めた。


「彼女の力は……君たちが思っているような、他者の命を奪い去る力ではない」


 ブン、ブン……と、風を切る音が響く。

 遠心力で宙を舞う青い宝石が、美しい残像を残してきらめく。


 ルーカスは、その光の軌跡を目で追いながら、実に愉快そうに——難解なパズルを解き明かした子供のような、無邪気で残酷な笑みを浮かべている。


 ――パシッ。


 不意に、乾いた音が響いた。

 回転していた宝石が、ルーカスの掌の中に乱暴に収められ、ピタリと動きを止める。


 ルーカスは、握り込んだ拳から人差し指だけを伸ばし、そのまま真っ直ぐにマリアを指し示した。


「君の力は、『あらゆる魔力の流れを強制的に停滞させる力』だよ」

ちょこっと話。


ルーカスが『寝れなくなる呪い』のかかった魔道具を持っていた理由は、彼が寝ずに魔法研究にいそしむためです。闇市で仕入れたのか……はたまた自前で用意したのか。ルーカスなら自前でも用意できそうですね笑

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