第0話 目覚めると、隣には
……夢を見ていた。 とても温かくて、幸せな夢だ。
昨晩、傷ついた銀色の狼を助けた。 治療を終えた彼は、まるで甘えるように私のベッドに潜り込んできて、私の腕の中に体を預けてきたのだ。 ダメだと思いながらも、そのふわふわとした毛並みの心地よさと、久しぶりに感じる「他者の体温」に抗えず、私は彼を抱きしめて眠りについた。
あんなにモフモフで、温かかったのだから。
(……ん……)
小鳥のさえずりで、意識が浮上する。 狭い一人用のベッド。 私のすぐ隣、同じ毛布の中に、「彼」の重みを感じる。
(まだ、寝てるのかな……)
マリアは、まどろみの中で、抱き枕のように密着しているその温かい背中に、無意識に腕を回した。 指先で、あの自慢の銀色の毛並みを撫でようとして——。
「……?」
違和感に、指が止まる。
(……毛が、ない?)
指先に触れたのは、ふわふわの毛並みではなかった。 しっとりと指に吸い付くような、滑らかな肌触り。 その下にある、鋼のように硬く引き締まった筋肉の弾力。
そして、火傷しそうなほどに生々しい、男性的な「熱」。
(え……?)
マリアの指が、無意識にその感触を確かめるように這う。 広い背中。たくましい肩のライン。 そして、私が腕を回しているのは、どう考えても「人間」の胴体だ。
「————ッ!?」
マリアは、心臓が喉から飛び出るほどの衝撃を受け、目を見開いた。 眠気など、一瞬で消し飛んだ。
「な、なに……っ!?」
目の前にあるのは、狼の後頭部ではない。 月光を溶かしたような、美しい銀灰色の髪。 そして、無防備に晒された、健康的な男性のうなじ。
「う……ん……」
「彼」が、寝苦しそうに寝返りを打った。 その拍子に、私の腕の中にいた「彼」が、くるりとこちらを向く。
「ひっ……!」
至近距離。 鼻先が触れそうな距離に、彫像のように美しい青年の寝顔があった。 はだけたシャツの隙間から覗くのは、鍛え上げられた胸板と、鎖骨のライン。
「ぁ、あ……」
マリアは、自分が置かれた状況を理解し、顔から火を噴いた。 狭いベッド。一つの毛布。 あろうことか、私は一晩中、この見知らぬ男性と抱き合って寝ていたのだ。
(狼さんは!? ど、どうして人間が!? え、嘘、私……男の人と……!?)
混乱と羞恥で、頭が真っ白になる。 逃げようにも、寝返りとともに彼の手が私の腰に回されていて、動けない。 密着した体から伝わる鼓動と体温が、彼がまぎれもなく「生きた男性」であることを、残酷なまでに教えてくる。
「……むにゃ……」
青年が、無意識にマリアを抱きしめる腕に力を込めた。 その吐息が、マリアの首筋にかかる。
静寂の森の工房。 誰にも見られてはいけない、甘く、危険すぎる朝が始まっていた。
(どうして、こんなことに……!?)
混乱する頭の片隅で、昨夜の出来事が蘇る。 そう。ことの始まりは、あの全てを凍らせるような、猛吹雪の夜だった——。
はじめまして、らぴなと申します。
小説はこの作品が執筆初めてです。
いろいろな小説・漫画作品に触れる中で、自分でも何か世界を生み出したいと思い、思い立ったが吉日この作品を書き始めました。
まだまだつたない部分もあるとは思いますが、読んでくれる方の心に届くような作品作りを心がけていきたいと思っております。
今後も、「あなたの孤独をほどくまで」をお楽しみください!




