交わる剣先
ある日の放課後、隼人は講堂の壁に掛けてあるスケジュール表を見て、言葉を失った。
そこには、練習試合の相手として「緑丘高校」の名前が記されていた。
隼人はすぐに倉本の元へ向かった。
広い会議室で、彼は抗議の言葉を口にする。
「倉本先生、生徒たちはまだ基礎を固めている段階ですよ。ファントの踏み込みも甘い。剣の操作だってまだまだ通用するレベルじゃありません。この時期に県№2の強豪校と対戦するのは、あまりにも時期尚早じゃないですか。」
しかし、倉本は静かに首を振った。
「だからこそじゃないか。生徒のためにも、早い段階で自分たちのレベルを認識させる必要があるんだ。現状を知り、壁にぶつかることで、彼らはもっと強くなる。」
その言葉に反論できず、隼人が沈黙した間を見計らい、倉本は目線を逸らさずにこう告げた。
「…ちなみに、緑丘高校の監督は、桂だ。」
「桂って・・・まさか、玲ですか?」
倉本が目を伏せた瞬間、隼人の思考は停止した。
閉ざされていた記憶の扉が、錆びた音を立てて開く。
そこから流れ込んできたのは、眩しいほどに輝く日々。
しかし、その光は一瞬にして崩れ去り、鋭利な破片となって隼人の心を突き刺した。
過去の歓声と、剣を捨てた日の静寂が、今、彼の胸で激しく共鳴した。
もう二度と会うことはないと思っていた。
激しく動揺し、言葉を失う隼人に、倉本は追い打ちをかけるように続けた。
「…そして、白鳳学院の監督は、風間だ」
隼人は愕然とした。
「先生はそれを知っていながら俺に声をかけたんですか?まさか、健太のやつもそれをわかってて俺に・・・。」
その問いかけに、倉本は何も答えず、ただ静かに隼人を見つめていた。
そして、ぽつりと一言。
「青柳の今のやつらは、どうしてもお前に見て欲しかったんだ。」
そう言い残し、倉本は会議室を後にした。
残された隼人は、一人静かにその場に立ち尽くしていた。




