剣の先に何を見るのか
隼人は校舎から講堂へ向かう渡り廊下で、ふと足を止めた。
窓の外では、陽を浴びて金色に透けるイチョウの葉が、風に吹かれてはらはらと舞っている。その景色を一瞥し、ゆっくりと青柳学園の講堂に足を踏み入れた。
コーチに就任して一週間。
隼人は特段何も言わず、ただ黙って練習を見ていた。
そこにかつて全国屈指と言われたフェンシング部の姿は跡形もない。
あるのは、手入れをされず錆びかけた剣と散らかった床。
試合コートも所々が汚れている。
練習をする生徒たちの動きに熱はなく、どこか義務的な空気が漂う。
彼らの視線は決して隼人と交わらない。
隼人は、生徒たちの心にある見えない壁を感じた。
「この部の目標は何だ?」
練習を始める前、隼人は生徒たちに問いかけた。
彼の問いに、生徒たちは顔を見合わせ、誰も口を開こうとしない。
「顧問の先生がいつも決めるものですから…」
一人が小さく答えた。
「そうじゃない。お前たちが、何のために剣を握っているのか。その理由を聞いているんだ。」
隼人の言葉に、生徒たちは戸惑う。
「やらされている」という意識が彼らの間に蔓延していた。
負けた時の言い訳を用意するかのように、自分の行動や責任を他人に委ねている。
隼人は、彼らのそうした態度から変えていこうと決めた。
「よし、じゃあこれからの練習メニューは、お前たちで話し合って決めてみろ。ただし、課題はたった一つだ。まず、この部の目標を決めて、それに合った練習メニューを組むんだ。」
生徒たちは戸惑いながらも、小さな声で話し始めた。
「全国大会出場なんて、どうせ無理だし…」
「だよね。県には全国優勝候補の白鳳も、実力が拮抗している緑丘もいる。どう考えても敵わないよ。頑張ったって、県で3番がやっとだ…」
そのとき、一人の生徒がポツリと漏らした。
「正直、練習にオフが欲しいなぁ…」
隼人はその言葉を静かに聞いた。
そして、成功体験の無さが彼らの心の虚無感を生んでいることを悟った。




