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婚約破棄ならご自由に~偽聖女な義妹を許しません~  作者: 七戸光


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第7話 新たな生活

よろしくお願いします。

 アルカディアス辺境伯領に身を寄せることになったリリアーナとお供のニケ。

 カシウスの許可を得て、領主邸で過ごすことになって数日が過ぎた。

 リリアーナたちの心が落ち着きを取り戻してきたこともあり、彼女はカシウスや領主邸をよく見ていて思ったことがある。


(王都ではできないこと、領民の生活を見てみたいわ。それに、カシウス様のことがもっと知りたい)


 リリアーナは自分にもできることはないかと、カシウスに尋ねる。


「リリアーナ嬢にお願いしたいことですか。よろしければ私の視察について来ていただけませんか。会っていただきたい人物がいるのです」

「ええ。もちろんですわ」


 早速カシウスに同行したリリアーナ。

 ニケは屋敷での仕事を学ぶことになったので留守番である。


 着いたのは辺境伯の城下に栄える村だ。

 活気があり人々で賑わっている。やはりリリアーナの聞いていた王都での辺境の印象とはかけ離れていた。


「カシウス様~」


 子供たちに優しく接するカシウス。

 とても辺境伯、隠してはいるが隣国の王子であるとは思えない程、領民を大切にしていることがうかがえる。


(カシウス様は本当に人格者ね。領民たちもカシウス様を慕っている。王都の貴族たちとは違う。打算や建前、裏切りそんな汚い思いを抱えた者もいない)


 リリアーナはカシウスや村の人々を見ていると、心が温かく幸せな気持ちになることを実感していた。



「リリアーナ嬢、こちらに」

 訪れたのは、村で一番大きな建物。

 前には、長いひげを生やした老人とその従者と思われる二人が立っている。


「村長。久しぶりですね。変わりはありませんか?」

「これは、カシウス様。お元気そうで何より。今年は麦が豊作ですぞ~。そちらのお嬢様は?」

「紹介します。彼女はリリアーナ。訳あって保護しています」


「リリアーナ・ヴェリディアと申します。よろしくお願いいたします」

「この村で村長をしております、エルドラ・マクレガーと申します。さ、詳しい話は中で」


 マクレガーは温かみのある木製の家具と明るい刺繡の布が特徴的な部屋へ、カシウスとリリアーナを案内した。


「ささ、紅茶でもいかがですかな。美味しいはちみつとミルクがありましてな」

「ありがとう」


 出された紅茶は可愛らしいマグに入っていて、貴族の嗜むようなティーカップではない。

 はちみつとミルクがたっぷり入れられた紅茶は、リリアーナの心をほぐすようなじんわりとした温かみを感じさせるものだ。


 彼女は一口飲んだところで無意識にはぁと吐息を漏らした。

 自然と彼女の顔にも笑みが浮かぶ。


「ふふ、気に入っていただけましたかな?」

「ええ、とてもおいしいです」

「それはよかった」


 マクレガーは口髭をなで、ほほっと笑うと、カシウスの方を向く。

「それで、本日はどうなされたのですか?」


「先日王都で聖女が誕生したと騒ぎがあった。リリアーナ嬢の義妹が聖女だと神殿が認めたのだが、リリアーナ嬢の話ではリリアーナ嬢の義妹は精神魔法で信者を得ているにすぎず、真の聖女ではないようだ」

「ほう。聖女を騙るとはなんと命知らずな……」


 カシウスは話を静かに聞いていたリリアーナへ向けてマクレガーの正体を告げる。


「マクレガー村長は元宮廷魔術師なんです。クロマク侯爵の暗躍で王都から追放されてしまったことを利用して、この辺境で私に力を貸してくれています」

「あの王国筆頭宮廷魔術師の……それは心強いですわね」


「王都はもう若い者に任せてもよいと思っておりましたが、アルセリア国王陛下のいない今、このような大事を引き起こすものに王位など継がせませんぞ。クロマクの好きにはさせんわ」

「頼もしいよ」


 マクレガーの心強い発言にカシウスとリリアーナも笑顔を見せる。

 マクレガーも2人に茶目っ気のある笑みを見せると、すぐに真剣な表情でリリアーナに向き直る。


「それと、リリアーナ嬢は真実視の目の継承者ですな」


「!」


 リリアーナは呼吸が止まるかと思うほど驚いた。

 幼い頃からリリアーナが抱えてきた秘密をこんなにもあっさり見破るとは、さすがは元宮廷魔術師。


 (カシウス様に知られてしまったわ……)


 リリアーナの脳裏に浮かぶのは、今まで出会ってきた社交界の屑。

 有用と分かればすぐに欲しがり、強欲で醜悪な笑みを浮かべる姿。


 リリアーナはカシウスがどんな表情をしているのか、恐ろしくなる。


 (カシウス様はなんと仰るのかしら?)


 リリアーナが恐る恐るカシウスの表情を覗う。


「!?」

 パチリと2人の視線が合わさる。


 リリアーナに読み取れたカシウスの気持ちは、真実視の瞳について知ってしまった前後で全く変わっていない。

 リリアーナに向けられた視線は、好奇でも執着でもなく、彼女を心配する温かいものだった。


 邪な権力者に慣れたリリアーナは、カシウスの心が少しも真実視の瞳を利用したいと考えていないことに驚く。


「……」

 ものの数秒が永遠のような心地の中、リリアーナは微笑む。


「マクレガー村長のご指摘通り、私は真実視の瞳を継承しています。今まで黙っており申し訳ありません」

 リリアーナは一歩踏み出すことを選んだ。


読んでいただきありがとうございました。

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