第3話 婚約破棄と辺境の地
王宮からの召喚令がとどいたリリアーナ。
(まさか、国王陛下と王妃殿下の外遊中に、王太子殿下の名でこのような行動にでるなんて。王太子殿下、貴族たち、多くの国民を巻き込んでの反逆じゃない。いいでしょう。この機会に国家に反逆する者を一掃するとしましょうか)
リリアーナがそんなことを考えているとはつゆほども思っていないのか、召喚令の知らせを受けて、今まで執拗に仮面をかぶってきたセラフィナの態度が急変した。
セラフィナはあからさまに醜い嘲りの表情を見せる。
「あはは、なんてざまなの、お姉様! 大丈夫よ。すぐに楽になれるわ!」
「セラフィナ……」
「すました顔をして、ホントにアンタが憎くてたまらなかったわ! 勉強も魔法も何でもできて! アンタがいなくなれば、この侯爵家は私のもの! 精々残りの人生楽しむことね!」
リリアーナは特に驚くこともなく、何も告げず王宮へと向かった。
贅の凝らされた豪奢な王宮では外遊中の国王陛下、王妃殿下不在の中、王都中の貴族が、王太子の名の下に集められていた。
「リリアーナ・ヴェリディア侯爵令嬢、貴殿は聖女となったセラフィナ・ヴェリディア侯爵令嬢を執拗に害し、聖女としての役割を妨害した罪で王都追放とする。貴族としての責務であったレオナルド・グランディア侯爵との婚約は解消とする。そうだな。レオナルド」
「はい。聖女を貶めるこんな悪女との婚約を破棄してくださりありがとうございます」
「よい。友のため、このような悪女は放ってはおけない。リリアーナ、最後の言葉はあるか」
「私は、決してそのような行いはしておりません。ですが、それが殿下のご判断であれば従います」
リリアーナは堂々と美しいカーテシーを見せると、ヴェリディア侯爵にちらりと視線を移し、数多の視線の中を何事もなかったかのように堂々と宮廷を後にした。
ヴェリディア侯爵はマデリンとセラフィナに挟まれて、悲しみと後悔、戸惑いなどの混ざった表情でリリアーナを見ていた。
(お父様、心配なさらないで。いつか真実を明らかにしてみせます)
リリアーナの心中を知る者はいない。
屋敷に戻ったリリアーナは、まとめておいた荷物を持ち、ついていくと言ってきかなかった専属の従者であるニケを連れてヴェリディア侯爵家を後にした。
(さぁ自由になったわ。ここからは反撃に向けて情報収集の時間よ。今回国王陛下と妃殿下が国外にいらっしゃる中での王太子と聖女を担ぎ上げる動きと継母様やあの場の貴族の心理。継母様はセラフィナに王太子との婚約をさせたいのね。貴族は賢王と呼ばれている現在の国王陛下が邪魔で代替わりを狙っている)
もはやヴェリディア侯爵家のただのお家騒動で収まる話ではなくなっていた。
現王を良く思わない一派が王太子への代替わりを狙っているのだ。社交界の膿を洗い出さなければ。
それがリリアーナの信用を最も回復できる方法だ。
リリアーナが追放を受け入れたのは、裏に潜む者達の証拠を押さえるため、自由に調査をしたいという狙いのためだった。
真実を暴き出して一国の王家を欺くのだから、それ相応の罰は受けてもらわなければ。
ごとごとと揺れる馬車にはリリアーナとお付きの従者のみ。
馬車も隠れしのぶようにして移動しているので、侯爵家の紋章などはなく地味な印象のものだ。
従者のニケはリリアーナに尋ねる。
「お嬢様これからどうされるのですか?」
「そうね、北方の辺境に向かいましょう」
「北方ですか? 強力な魔物も多く随分と過酷な場所だと聞いていますが……」
ニケの不安そうな表情にリリアーナは安心させるように微笑みかける。
「そうね。だけど北方のアルカディウス辺境伯は王都にはほとんど来られない方だと聞いているわ。きっと今回の騒動についても関与しようとはしないはず。身を隠すには丁度いいわ」
「なるほど。流石お嬢様です」
「王都を出たら町々で護衛を雇って進みましょう」
リリアーナ自身も魔法は使えるが、彼女は深層の令嬢であり、実戦経験があるわけではない。
出来るだけ目立たず安全な方法で北方へたどり着きたいところだった。
リリアーナの旅は、始まったばかりだ。
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