第2話 聖女の誕生
神殿での祈祷式の当日。
リリアーナはセラフィナに誘われていた通り神殿を訪れていた。
(さぁ、何をするつもりなのかしら、セラフィナ)
荘厳な神殿の中で、神に祈りをささげる少女たちの中にセラフィナの姿がある。
突然セラフィナの周囲に光が満ち溢れた。周囲も異変に気付き、誰もが解きが止まったかのようにセラフィナを見つめた。
光が治まったセラフィナのもとへ、病に侵された子供が運ばれてくる。
彼女が手をかざすと瞬く間に子供の顔色が良くなった。
「おお、奇跡じゃ……」
「あのお力はまごうことなき聖女様だ!」
「聖女様!」
「おとぎ話じゃなかったんだ! 聖女さま!」
「ああ、セラフィナ……君はなんてすばらしいんだ」
目のまえで起きた奇跡にセラフィナを聖女と称え始めた民衆。
そして婚約者が来ていることもお構いなしでレオナルドがうっとりとした表情でセラフィナに見惚れている様子を見たリリアーナは、義妹が起こしたこのショーに驚いた。
(随分と大それたことをするのね。光魔法での治療ではなく、発光させただけ。子供の方は精神魔法で心を操り病気と思いこませただけ。そしてここにいる民衆の心を操ろうとしている)
リリアーナには真実視の目の力でセラフィナの能力が効かないが、奇跡を一度信じてしまった人々の心には簡単に精神魔法は効く。
リリアーナは熱い声援をセラフィナに送るレオナルドをちらりと見る。
そして、セラフィナの近くに待機していた継母マデリンが口を開いた。
「神官長様、我が娘セラフィナ・ヴェリディアは神様からの掲示によって聖女様となったのではありませんか?」
「はい。この奇跡は間違いなく神様ご加護を賜っているとしか思えません。セラフィナ・ヴェリディア侯爵令嬢を聖女と認めます」
高らかな宣言がなされた。
久方ぶりの聖女の誕生に世界がとどろく様な歓声が上がる。
「……」
この日から国の情勢は一変した。
セラフィナが聖女になったことで、国王陛下より国への尽力をかわれ名誉とお金が、侯爵家に入ることとなった。
侯爵家の立場も上がり、社交界でも大きな話題となっていた。
また、セラフィナの生みの親として継母であるマデリンの立場も大きく向上し、権力を手にするようになっていった。
だがそんな中、相反するようにまことしやかに流れ始める噂があった。
それはセラフィナの義姉であるリリアーナが、セラフィナをいじめている、立場を奪おうとしているというものだった。
世に広がるリリアーナへの悪意のこもった噂に、当のリリアーナはというと、全く意に介した様子はない。
それもそのはず、リリアーナにはすべて見えているのだから。
リリアーナはセラフィナの考えていることが手に取るようにわかる。
セラフィナは自己顕示欲が強くリリアーナを疎ましく思っているが、こんな行動を1人で起こせるほど頭が回る少女ではない。
神殿で見た継母の様子を見た時点でリリアーナは、継母マデリンの野心と策略を見抜いていた。
(お継母さまが裏で糸を引いている。人をその気にさせるのがお得意ですものね。どのみちこんな重大な嘘を吐くのだから他にもお仲間がいると思ってよさそうね)
日に日に悪化していくリリアーナの評判は王都と周辺の街へ広まっている。
「大丈夫ですか? お姉様。評判なんて気にすることありませんわ」
心配するふりをしたセラフィナ。目の奥に愉悦の色が隠せていない。
リリアーナの真実視の目が無くても分かっただろう。
「大丈夫よ。セラフィナ」
父親であるヴェリディア侯爵は、突然湧いた娘の悪評に戸惑っているようだが、仕事は出来るが妻に逆らえない男なので疑問を抱きつつも、マデリンにいいように言いくるめられているらしい。
リリアーナに直接会いに来ることはなかった。
レオナルドはと言えば、どうやら噂を真に受けて、リリアーナのことを見限ったようで、セラフィナの元へ通い詰めているようだ。
同じ家にいるのだから来訪は分かっているのに隠しもしないのは、リリアーナのことをどうでもいいと思っているからに違いない。
リリアーナのことを本気で心配して声を掛けてくれるのは、リリアーナ付きの一部の使用人と一番の友人であるロザリー・エステルだけだ。
ロザリーはエステル伯爵家の令嬢で、唯一打算などのない友愛の気持ちでリリアーナと接している裏表のない人格者で、彼女の父であるエステル伯爵もまた、幅広い人脈をもつ素晴らしいと評判だ。
「リリアーナ、貴女大丈夫ですの? 貴女が妹をいじめるなんてありえない噂が広がっていますわ。その、セラフィナ様の取り巻きや神殿の関係者、ヴェリディア侯爵家に出入りする業者を介してといった形で広がっています」
普段おっとりしているロザリーだが、友人であるリリアーナの危機とあってか語気が強まる。
「それに、レオナルド様がセラフィナ様と一緒に神殿に出入りしているところを見た方が多くいらっしゃるようで……レオナルド様も何を考えていらっしゃるのか」
「ロザリー、ありがとう。貴女が自分のことのように怒ってくれて、とても嬉しいわ。でも大丈夫よ。しばらく貴女には心配をかけてしまうかもしれないけれど」
リリアーナは心優しい友人に、穏やかな笑みを見せて安心させていた。
そうして、決定的な事態が起きる。
王宮への召喚令がリリアーナへ下ったのだった。
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