洗面所
私が幼い頃住んでいたアパートには脱衣所が無かった。お風呂が玄関の正面にあって、その隣にある洗面台の前で服を脱いで、または着ていた。そこで幽霊を見たことがある。
当時は20時半頃には寝ていたから、20時前とかだったと思う。母と妹とお風呂から上がって、私だけ、歯磨きをするために洗面所に残っていた。歯磨きをする時は当然、鏡を見る。その鏡に女の子が映っていた。
長い黒髪で、喪服のようなワンピースを着た子だった。俯いて、私の左斜め後ろに立っていた。髪がカーテンになって顔は見えない。
驚いて振り返ったが居なかった。もう一度、鏡を見直したがやはり居なかった。見間違いかと思ったが、近くに黒い物は無かった。
今は別の家に引っ越している。そこには脱衣所がきちんとある。
夜中、寝る前に歯磨きをしようと脱衣所にある洗面台の前に立っていた。脱衣所の扉と、その前にある、リビングの扉は開いていた。丑三つ時も近かったため、リビングの電気は消えていた。
そのリビングを、白いTシャツを着た人が横切って行ったのを、鏡越しに見た。男か女かは分からない。というか、そもそもなんで白いTシャツの人だと思ったのだろうか。ただ、大人の肩ぐらいの高さを白いナニカが横切っただけだ。
泥棒だったらどうしようと、不安になったのだが、焦りはしなかった。そのまま、歯磨きを終えて、リビングに水を飲むついでに誰かいないか確認しに行った。母がソファで寝ていた。弟と寝ている部屋が狭いからなのか、リビングまで移動したらしい。「なんだ、ママか」と言いかけて、母が青いTシャツを着ている事に気が付いた。私は、暗いところを見ないようにして、部屋まで戻った。