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7 お互いを知ることに「蹴り」は含まれません

 トンッと背中にリオンの温もりがある。エミリアはリオンに後ろから抱きしめられていた。


「リ、リオン様!?」

「勘違い?俺のこの気持ちが勘違いだって言うのか?」


 まるで拗ねているかのような声でそう言うと、ぎゅっとエミリアを抱きしめて、リオンはエミリアの肩に顔を埋める。


「だったら教えてくれ。好きと言うものはどういう気持ちなんだ?俺はエミリアを思うと胸が苦しくなるし、でもその苦しさは嫌な苦しさじゃない。エミリアが笑ってくれると嬉しいし、エミリアにそっけなくされるとなんだか辛くなる。ヒュドラがエミリアに刃を向けた時は怒りとエミリアを失う恐ろしさで気が狂いそうだった。エミリアの一挙一動で俺の心はいつも忙しい。こんな風になることなんて今まで一度もなかったんだ。これが好きという気持ちでないのなら、一体なんだって言うんだ?」


(リオン様……!?そんな風に思って下さってたの?)


 殴られた時の痛さや死の恐怖を味わえた胸の高鳴りを、リオンが好きと勘違いしているだけなのだと思っていた。でも、どうやらそれだけではないらしい。


(どうしてこんなに嬉しいんだろう?ギフトのせいで頭がイカれた婚約者だとばかり思っていたのに……)


 リオンに抱きつかれて、リオンの言葉を聞いて、エミリアの胸はずっとドキドキしている。


「エミリア、もしかしてこうされていることでドキドキしてるのか?俺もドキドキしているけど、エミリアからも心臓の音が伝わってきている」


 そう言って、リオンはエミリアの首筋に唇をそっと当てた。


「なっ、リオン様、くすぐったい!」

「エミリア、俺は絶対に婚約解消はしない。エミリアを手放す気なんてないからな」


 そう言って、リオンはグッと抱きしめる力を強くする。


「エミリアも、婚約は解消しないと言ってくれ。そうじゃなきゃ、俺はこの手を絶対に離さない。ずっとこのままだ」


(なんでそんなに急に子供みたいなこと言い出すんですか!?そもそも、第三王子に対して私から婚約解消なんてできるわけないのに)


 エミリアが戸惑って無言でいると、リオンはムッとして肩に頭をぐりぐりと押し付けている。もはや駄々っ子のようだ。エミリアは小さくため息をついて、リオンの腕に自分の手を添えた。


「……わかりました。婚約解消はしません。だからいい加減この腕を離していただけませんか?」

「本当に?絶対?」

「本当だし、絶対です」


 エミリアがキッパリとそう言うと、リオンはゆっくりと腕を離してエミリアを解放する。だが、すぐにエミリアの腕をとってエミリアの顔を自分の方へ向ける。エミリアはリオンの顔を見て目を丸くした。リオンの顔は不安げで悲しそうな顔をしている。


「本当に、俺の前からいなくなったりしないか?」


(なんでそんな顔してるの?そんな顔するなんてずるい……!)


「いなくなったりしません。大丈夫です。だからそんな顔なさらないでください」

「今の俺は、そんなに変な顔をしているのか?」

「変な顔というわけではなくて……ずるい顔ですね」

「ずるい、顔?一体どんな顔なんだ?」


 そう言ってキョトンとするリオンに、エミリアはついフフッと笑ってしまう。そして、エミリアの笑顔を見てリオンはホッとしたように微笑んだ。


「よかった、笑ってくれた」


(今度はそんな嬉しそうな顔して……ずるいにも程がある)


 夜会で拳を当ててしまう前までは、リオンはあまり表情を崩さない人間だと聞いていた。だが、目の前のリオンはこんなにも表情がコロコロと変化している。闘神かのような表情で恐ろしい、と思った時もあったが、こうして微笑ましい一面も持っているのだ。


(もう少し、リオン様に向き合ってリオン様を知ってみたいな)


「リオン様、私たち、お互いのことをまだあまり良く知りませんよね。お互いのことをもっと知ってみませんか?」

「お互いのことを、知る?」

「そうです。お互いのことをもっとよく知れば、その気持ちが一体どういうものなのかわかるかも知れません」


 エミリアの言葉に、リオンはほんの少し首を傾げ、顎に手を添えてから考えるような仕草をする。


「それは、例えば今度は君に蹴られてみる、とかだろうか?」


(いやいやいや、だからなんでそうなるの?どうしてそういう思考になるのかしら。やっぱりこの人、おかしい。頭がイカれてるんだわ)


 はあーっと盛大にため息をつくエミリアに、リオンは困った顔をして慌てている。


「すまない、違かったか」

「違います。ものすごく違います。いいですか?殴るとか蹴るとか殺すとか、そういう物騒なことから一度離れてください。そういうことではなくて、お互いの幼少期とか、好きなものとか、嫌いなものとか、趣味とか、そういうことです!」


 エミリアがふんす!と鼻息を荒くしてそう言うと、リオンはなるほど!と目を輝かせた。


「わかった、そういうことであれば俺も、君について色々と知りたい。そうだな、お互いに知ることも大切だ」

「わかっていただけてよかったです。とりあえず、明日から少しずつ試してみましょう。今日はもう休んでください」


 エミリアがそう言ってリオンの手をとりベッドまで誘導すると、リオンは渋々ベッドの中に入り込んだ。


「もう行ってしまうのか」

「リオン様はそもそも安静にしていなければならないんですよ。明日また来ますから」

「……ああ、楽しみにしてる」


 フワッと嬉しそうに笑うリオンを見て、エミリアの胸は思わず高鳴る。


(ああ、なんで心がこんなに振り回されちゃうんだろう。でも、これはこれで悪くないかも知れない)




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