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20 こんなに好きになるなんて思いませんでした

「……リオン様!?」


 エミリアが言い終わる前に、いつの間にかエミリアはリオンの腕の中にいた。


「そんなこと言うな。エミリアが俺にふさわしくない?そんなことありえない。俺はエミリアじゃなきゃダメだ」


 そう言って、リオンはぎゅうううっと力強くエミリアを抱きしめる。


「エミリアの手が魔物の血で汚れているのなら、俺の手だってそうだ。俺だって騎士として魔物と対峙し何体も倒してきた。魔物だけじゃない、他国の兵とも戦ってきた。俺の手の方がよっぽど汚れている」


(リオン様……)


 確かに、騎士団から要請があってその時だけ駆けつけるエミリアより、騎士として実際に剣を振るっているリオンの方がよっぽど返り血を浴びているだろう。


 エミリアとリオンは同じ任務についたことがない。エミリアが呼ばれるのはいつも人手が足りない場所で、いくら『最強の騎士』のギフトを持つエミリアであっても、騎士団に正式に所属しているわけではないため、行ける任務も限られていた。


(リオン様の方がよっぽど大変な任務に行って死地をくぐり抜けてきた。それなのに私は……)


 リオンの腕の中でエミリアは悲しげに瞳を閉じる。


「それに、俺の方がよっぽどエミリアにふさわしくない」


 そっと体を離してリオンはエミリアの顔を覗き込む。その顔はまだ不安げで悲しそうだった。


「エミリアの気持ちも考えず、婚約者になった途端真剣勝負を申し込んだり、本気で蹴ってくれと頼んだり……俺は、自分のことしか考えていない最悪な男だ。こんな俺が、エミリアにふさわしいわけがない。わけがないんだ……でも!」


 リオンはがしっとエミリアの肩を掴む。


「俺は!エミリアじゃなきゃダメなんだ。こんなに誰かのことを思って胸が苦しくなったり、誰かのために何かしたい、笑顔になって欲しいと思えるのは、エミリア、君のおかげなんだ。そして、エミリアにしかそう思えない。エミリア以外の令嬢なんて考えられない」


 リオンの金色の瞳が灯りに照らされてキラキラと光る。


「この胸の高鳴りは、エミリアが俺に唯一痛みや恐怖を与えられるからじゃない。きっかけはそうだったとしても、今はそれだけじゃないんだ。俺はエミリア自身に惹かれている。エミリアの優しさや強さや聡明さ、そして美しさにも」


 そう言って、愛おしそうな瞳でエミリアを見つめる。


「エミリアには俺みたいな痛みや恐怖を知らなかった、人の心に無頓着な男なんかよりもっとふさわしい男がいるのかもしれない。……それでも、俺はエミリアを手放せない。手放したくないんだ」


 そう言って、リオンはまたエミリアを抱きしめる。


「エミリアのためを思うなら、俺は婚約を解消すべきなんだと思う。わかってるんだ。でも、俺はエミリアと離れたくない。ずっと一緒にいたいんだ。どうしたらいい?どうしたらエミリアを幸せにできる?」


 そう言うリオンの肩は小さく震えていた。


(リオン様……私のことをそんなにまで思ってくださっていたのね)


 エミリアは思わずリオンの背中に手をのばす。そして、優しく抱きしめ返した。


「リオン様。確かに、リオン様は人の心に無頓着でデリカシーのない人です。婚約者になって屋敷についた途端、真剣勝負を申し込まれた時には意味がわかりませんでした。それに、殺されかけるなんて思わなかったですし、本当に怖かった」


 エミリアの言葉に、リオンのエミリアを抱きしめる力が強くなる。


「リオン様の怪我が回復してすぐ、また対戦を申し込まれたのもどうかと思いました。私に蹴られて興奮している姿には本当に驚きましたし、やっぱりこの方はどこかネジがぶっ飛んでらっしゃるのだと思わずにはいられませんでした」


 エミリアが言葉を発するごとに、リオンの背中がどんどん丸まっていく。リオンはエミリアの肩に顔を埋めながら、ううう、と低くうめいている。


「……でも、リオン様はヒュドラから私を守ってくださいました。今まであんな怪我をしたことがないほどのひどい怪我をしてまで、私を守ってくださった。それに、一緒に過ごすうちに、リオン様にもちゃんと人の心があるのだとわかってきました。夜会でも、私に酷い言葉を向ける人たちから守ってくれた」


 エミリアはリオンを少しだけ強く抱きしめた。すると、リオンの体がほんの少し揺れる。


「初めはギフトのせいで頭のイカれた心底やばい人だと思っていたのに、いつの間にか私はリオン様をもっと知りたいと思うようになっていました。そして、リオン様の不器用な、でも本当はものすごく優しい人柄を知っていけばいくほど、リオン様に惹かれていったんです。……こんなに好きになるなんて思いませんでした」


(あのお兄様が仲良くする方なんだもの、人の心が全くないわけがない。どうしてそれにもっと早く気づかなかったのかしら)


 エミリアがそっと体を離してリオンを見上げると、リオンの両目は大きく見開かれていた。


「ほん、とうに……?」


 リオンの疑問に、エミリアは微笑んで頷く。


「リオン様はもう、痛みも恐怖もきちんと感じられる。そして、それは体の痛みや恐怖だけでなく、心についてもです。そしてそれを感じられるリオン様は、たたのイカれたおかしい方なんかではなく、とても素敵な方ですよ」


 ふわっと花が咲いたかのように微笑むエミリアを見て、リオンの心臓はドクン!と大きく高鳴った。そしていつの間にか、リオンはエミリアの頬に片手をそっと添えていた。


「俺にそれを教えてくれたのは、エミリア、君だ。好きだよ、エミリア。いや、好きではおさまりきらないほど、愛している」


 リオンのエミリアを見つめる金色の瞳は、エミリアへの愛情がなみなみと溢れんばかりだ。そして、そんなリオンを見るエミリアの美しいアメジスト色の瞳にも、リオンへの愛が溢れていた。


「私も、愛しています。リオン様」


 エミリアの返事に、リオンは心の底から嬉しそうに微笑む。そして、そんなリオンの笑顔を見て、エミリアも嬉しそうに微笑んだ。


 リオンは静かにエミリアの頬に自分の頬を擦り寄せる。そして、優しくエミリアの唇にキスをした。




 『不屈の身体』のギフトを持つせいで痛みも恐怖も、そして愛というものさえも感じることのなかった男は、一人の令嬢と出会ったことで痛みと恐怖を味わい、愛し愛されることを知った。

 不思議な出会いから始まった二人の不思議な関係は、誰もが羨むほどの相思相愛の夫婦となった。


最後までお読みいただきありがとうございました!

二人の恋の行方を楽しんでいただけましたら、感想やブックマーク、いいね、☆☆☆☆☆等で応援していただけると嬉しいです。

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