17 私のような令嬢はふさわしくないのかもしれません
「リオン殿下」
声のする方を振り向くと、そこには貴婦人とうら若き令嬢がいた。
「あなたは確か、ヴォルデウス公爵夫人」
「ええ、大変ご無沙汰しておりました。リオン殿下、お変わりないようで何よりです」
リオンに挨拶すると、公爵夫人は隣にいた令嬢を肘でこづいた。令嬢はリオンに見惚れていたが、ハッとしてすぐにカーテシーの挨拶をする。
「リ、リオン殿下、お初にお目にかかります。ヴォルデウス公爵家長女のファンナと申します」
小柄で華奢なファンナは薄紫色の美しいドレスに身を包み、見るからに可愛らしいという言葉がぴったりだ。綺麗にまとめ上げられた金色の髪の毛には白い小さな花の飾りがついていて、可憐なファンナの顔立ちをひき立たせている。ブラウンの瞳でリオンをじっと見つめ、頬をほんのりと赤らめている。
(なんて可愛らしい御令嬢なのかしら……!)
そのあまりの可愛らしさにエミリアが目を輝かせていると、ヴォルデウス公爵夫人がコホンと咳払いをした。
「リオン殿下、そちらの方は?」
「ああ!こちらは俺の婚約者のエミリアだ」
「エミリア・アルベルトと申します」
エミリアが静かにそう言って挨拶をすると、ヴォルデウス公爵夫人はさも驚いたというような顔をしてエミリアとリオンを見る。
「まあ、婚約なさったというのは本当だったのですね?それにしても、アルベルト家と言ったら『最強の騎士』のギフトを持つ騎士団一家でしょう。確か御令嬢も、まるで男のように強いとか。女らしさのかけらもないと聞いていましたが、まあ、馬子にも衣装ですわね」
ヴォルデウス公爵夫人は小馬鹿にしたような微笑みを浮かべてエミリアを見る。隣にいるファンナも、クスッと小さく笑った。
(馬子にも衣装、か。確かに、私にこんな美しいドレスも、こんな華やかな場所も似合わないってわかってる)
エミリアが自虐的に小さく微笑むと、そんなエミリアを見てリオンはムッとしてからヴォルデウス公爵夫人を睨みつけた。
「俺の大切な婚約者を馬鹿にするような発言は控えていただきたい」
「えっ……いえ、そんなつもりはありませんでしたのよ。でも、ドレスに着せられたような御令嬢より、うちの娘のような可憐で奥ゆかしい女性の方がリオン殿下にはお似合いだと思うんです。確か、エミリア様は実際に騎士として剣を振るってらっしゃるのでしょう?女性なのに。魔物を切ったこともあるという話も聞きますし、その手は魔物の血で汚れているのでしょう、野蛮だわ」
ヴォルデウス公爵夫人はそう言って扇で口元を隠すと、ファンナもまあ、と小さく悲鳴をあげて顔を顰める。そんな二人の様子に、エミリアはズキリと胸が痛んだ。
今まではどこで何を言われても気にしてこなかった。むしろ、この国の騎士団をまとめ上げるアルベルト家の人間として誇らしいとさえ思っていたのだ。だが、今はなぜか胸が張り裂けそうなほど痛い。
(確かに、この手は魔物の血で汚れているのかもしれない。私みたいな、男勝りでガサツな女なんて、確かにリオン様にはふさわしくないのかもしれないわ。リオン様の隣には、ファンナ様みたいな可愛くて可憐で守ってあげたくなるような、そんな女性の方がいいのかもしれない)
エミリアはそっと自分の片手を眺めてから小さく息を吐く。こんな気持ちになるなんて、最初の頃は思いもしなかった。リオンの自分に対する思いもただの勘違いだと思っていたし、戦闘狂のようなリオンを恐ろしく、頭のおかしい男とさえ思っていたのだ。それなのに。
「いい加減にしてくれないか」
リオンの、低く内臓を揺るがすほどの恐ろしい声が聞こえてきて、ハッとしてエミリアはリオンを見上げた。




