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16 そんなにダンスが上手いなんて驚きです

「あの、リオン様、本当に踊るのですか?」

「ああ、エミリアは俺と踊るのは嫌か?」

「いえ、踊るのが嫌なわけではないのですが、あまりうまくないので……」


 主催者の元へ行くと、礼を言われせっかくだからダンスをして行ってくれと言われた。そして今、リオンとエミリアはホールの中で向かい合い、手を握り合っている。曲が流れ始めると、リオンのリードでダンスが始まった。


「エミリアはこうやって夜会でダンスをすることはあまりなかったのか?」

「そうですね……全くないわけではありませんが、私の場合、舞踏会よりも武闘会の方がお似合いだと言われることも多くて」


 どんなに綺麗に着飾っても、どんなにおしとやかな振る舞いをしても、『最強の騎士』のギフトを持つ令嬢だからと男性からはあまりいい印象を持たれず、むしろ怖がられたりもしてきた。


「そんなことを言うクソは何処の令息だ。俺が絞めておこう」


 地を這うような恐ろしい声と形相でリオンが言うので、エミリアは慌ててしまう。


「絞めるのはやめてください、リオン様が言うと本気としか思えないし、相手の方も無事ではいられないでしょうから」

「……納得はいかないが、それでもエミリアとこうしてダンスをした人間はほとんどいないということなんだな」


  リオンは自分以外にこうしてエミリアとダンスした相手がほぼいないということを喜んでいた。だが、エミリアはそんなことに気付きもせず、申し訳なさそうにうつむいた。


「はい、なのであまりうまくないんです。申し訳ありません」

「気にしなくていい、俺がちゃんとリードするから。俺に身を預けてくれ」


 リオンはそう言うと、軽やかにステップを踏む。エミリアが慌てる間もなく、自然にリオンのステップに合わせることができてエミリアは驚いた。


(さすがは第三王子。ダンスもきっと小さいころから叩き込まれていたのね)


 リードの仕方も完璧で、もしかしたら他の令嬢とダンスをしたことがあるのかもしれない。第三王子ともあればそういう機会にも恵まれるだろう。そう思った瞬間、エミリアは胸がチクリと痛む。


「エミリア?ステップが速すぎるか?」


 エミリアの様子がおかしいことに気付いたリオンは、自分のステップが速すぎるのかと勘違いして尋ねた。


「あ、いえ、違うんです。ただ、その……とてもダンスがお上手なので、リオン様はきっと他のご令嬢ともこうして踊ったことがあるんだろうなと思いまして」


(こんなこと言ったら、まるで焼きもちをやいているみたい)


 エミリアの言葉に、リオンは一瞬目を丸くしてからフッと嬉しそうに微笑む。


「確かに、立場上他のご令嬢とダンスをする機会はあったな。だが、楽しいと思ったことは一度もなかった。むしろ、退屈でなんでこんなことをしなければいけないんだと思ったし、それが態度に出てしまったんだろう、ご令嬢や周囲の人間から怒られたな」

「そう、なんですか」


 怒られるなんてよっぽど態度に出てしまったのだろう。リオンのことだからなんとなく想像はつく。エミリアが思わずくすっと小さく笑うと、リオンは愛おしそうな目でエミリアを見つめながらそっと耳元でささやいた。


「エミリアがそんな風に言うってことは、もしかして嫉妬してくれたのか?だとしたら嬉しいよ」


 リオンの顔が耳元から離れると、エミリアは驚いてリオンを見つめてからぶわっと顔が赤くなる。そんなエミリアを見て、リオンは嬉しそうに目を細めて微笑んだ。




 ダンスが終わり、エミリアとリオンは会場の端で一息つく。そんな二人を、会場にいる誰もが注目してチラチラと視線を送っている。


(ただでさえリオン様は目立つのに、ダンスまでしたらもっと目立つわよね)


 わかってはいたことだが、そばにいる自分にまで視線が集まっているのがわかっていたたまれない。さてどうしたものかと悩んでいると、背後から澄んだ明るい声が聞こえてきた。


「リオン殿下」


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