14 夜会に潜入しています
「あんなに美しい貴族いたか!?どこの誰だ?」
「えっ、第三王子のリオン殿下?あの、いつも前髪で目元が隠れて不愛想で陰湿そうだったあの?」
「嘘でしょう、あんなに美しい方だったの?」
夜会当日。リオンの姿を見て、参加者たちはひそひそ話をしながら男女問わず口々にリオンを誉めている。エミリアは、リオンの隣に立ちながら戸惑っていた。
(リオン様に前髪を切った方がいいと言っただけなのに、こんなことになるなんて)
夜会に出るのだから、髪型にももう少し気を使った方がいいと、軽い気持ちでリオンに言ったのだ。リオンはいつも前髪が目にギリギリかかるくらい長めで、せっかくの美しい金色の瞳が見え隠れしていた。もともと無口な上に不愛想でリオンは誤解されやすい。前髪を少し切って目元が見えやすくすれば雰囲気も変わるだろうと思ったのだが。
(まさかこんなに変わるなんて思いもしなかったわ)
前髪を少し短くして緩く分け、夜会用の礼服に身を包みエミリアをエスコートするその姿に、参加者は皆釘づけだ。令嬢たちはリオンを見ながら頬を赤らめている。そんな令嬢たちを見て、エミリアはなんだか胸の中がざわざわとして仕方がない。
「エミリア、どうかしたのか?」
「あ、いいえ、なんでもありません」
周囲の反応に全く気が付かない様子のリオンに、エミリアはなんだかホッとしたような気持ちになる。
(あれ?どうして私、ホッとしているのかしら?)
エミリアが不思議そうに首をかしげると、リオンはそんなエミリアを見て同じように首をかしげる。それから、周囲を見て眉を顰めた。
「エミリア、今日の君はいつも以上に素敵だけど、そのせいで他の男たちが君を見て色めき立っている。気に食わないな」
「え!?そんなはずありません。私が見られているとしたら、きっとリオン様の隣にいるのが私で不釣り合いだと思われているんですよ」
「は?誰がそんなことを?」
急に怒ったようなドスの効いた声になり、指をパキパキと鳴らし始めるリオンに、エミリアは驚く。
「あ、いえ、誰も言ってません!ただの予想です!言ってませんから落ち着いてください」
「……そうか?それならいいが」
腑に落ちないような顔でリオンは手を下ろすと、エミリアは苦笑する。そして、リオンが自分のために怒ってくれたことをなんとなく嬉しく感じていた。
「周囲の方がこちらを見て何か言ってるのは、リオン様が前髪を切ってそのお顔が見えたからですよ。リオン様の美しさに皆驚いているんです」
「俺の顔?俺の顔は今までと何も変わらないはずだが」
「それでも、目元が見えることによって今までよくわからなかったリオン様の一部がわかったような気になるんだと思います。それに、表情も今までより柔らかくなっていますし」
(無口で無愛想、何を考えているのかよくわからない第三王子というイメージが強かったけれど、今のリオン様は表情もよく見えるし、無愛想でもないもの)
「もし俺の表情が柔らかくなってるとしたら、それはエミリアのおかげだと思う」
「……私の?」
「ああ、エミリアと一緒にいることで、俺は色々なものに心が動く。それと同時に、きっと表情も和らいできてるんだろう。だから、エミリアのおかげだ」
そう言って、リオンはエミリアの片手を取ってそっと口づける。
「リ、リオン様!周りに人が……」
「別にいいだろ?俺たちは婚約してるんだし」
エミリアが顔を真っ赤にすると、リオンは嬉しそうに微笑む。そんなリオンを見て、近くの令嬢から黄色い声が聞こえた。
「なんだ!?不審者か!?」
「ち、違います、あれはリオン様に向けられた歓声です」
「俺に?なぜ?意味が分からない」
リオンはそう言って首をかしげ、エミリアはそれを見て苦笑した。
(わかってほしいような、わかってほしくないような、複雑な気持ちだわ)
「そんなことより、今のところは不審者らしき人物は見当たらないな」
リオンが小声でエミリアへ言うと、エミリアも真剣な表情になって小さく頷く。カイルからは、参加者にまぎれた不審な人物がいないかどうか目を光らせていてくれと言われていた。
前回捕らえられた不審者は、参加者にまぎれて屋敷に忍び込み、参加者が足を踏み入れないはずの部屋に入って物色していたそうだ。たまたま部屋の前を通りかかったメイドが閉まっているはずの部屋のドアが少しだけ開いていることに気付いて、不審者を見つけて騒ぎになったというわけだ。
「エミリア、もし不審な人物がいても、エミリアは手を出さないでくれ。必ず俺に言ってほしい」
「……?わかりました。でも、私一人でも捕まえることはできると思いますが」
エミリアは『最強の騎士』のギフトを持つ。そんじょそこらの相手では、エミリアに敵うものはいないだろう。
「それでも、俺はエミリアが危ない目に合うかもしれないのは嫌だ。それに、不審者がエミリアの拳を受けるかもしれないと思うだけで嫌なんだ。エミリアの拳を受けるのは俺だけであってほしい」
しみじみとそう言って、リオンは真剣な顔でエミリアを見つめている。
(んん?なんか理由が独特すぎるきがするけど……)
ある意味、リオンなりの嫉妬なのかもしれない。リオンを見上げながら、エミリアは呆れたように小さくため息をついた。
「わかりました」
エミリアの返事に、リオンはぱああっと顔を輝かせる。それを見て、エミリアは思ずフフッと笑ってしまった。だが、すぐに真剣な表情になる。リオンのまとう空気が急に変わったからだ。
「リオン様?」
「あの男、やけに周囲をきょろきょろとしている。相手になりそうな令嬢を探しているという感じではない。怪しいな」
リオンが小声でそう言うと、エミリアはリオンの視線の先を見つめる。そこには、確かに周囲を警戒する用な怪しい動きをしている男性がいた。




